『ペットフード』
それから数日間、ビーズ細工に熱中し、ブレスレットの事を忘れてしまっていた。
それが正しかったのかも知れない。
これがなければ全ては…。

この日、少し形になった作品を手に、クライアントと最終確認のために雨哥は久しぶりに外出する事になった。
家の鍵を閉め、鉄の階段を下りると【１０１号室】のドアが開いた。
特に気にする事もなく、「おはようございます」と挨拶をした。
ごくごく普通に。
【１０１号室】の住人は女性だった、
初めて姿を見た。
「どうも」と【１０１号室】のその住人は小さく言い、目を合わせない。
一瞬、ドアの隙間に目が行った。
何か袋が並び、その袋には “ペットフード” と書かれている。
見た事のない種類のペットフードだ。
「何?」と【１０１号室】の女性がドアを閉める。
見てしまった事に対し、雨哥は咄嗟に頭を下げる。
「すみません。私、２０１号室の××雨哥です」
「そう…」
それだけ言い、女性は雨哥の横を通り去って行ってしまった。
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