『ペットフード』
19:42
デザインを考えている間、音は聞こえていた。
この時間にこの音を聞くのは、引っ越して来てから初めてだった。
ただそれだけで、特に気にはならない。
一緒の時間に仕事をしている。それだけの事。
もし今、苺美が来ていたらきっと「うるさい」と言うのだろうけど…。
苺美…。
いつその…あの行動を起こすのだろう…。
その時を待つ。
その時が来ないのが1番良いのだけれど…。

23:31
音が聞こえて来ないと気付いた。
少し前から止んでいた気もするが、そこまで気にしていなかった。
“バタン”と言う音が響いた。
雨哥は窓の方へ向かう。
カーテンを開けっ放しな事に気付く。
ふと窓から駐車場を見ると、ワゴン車が出て行く所だった。
「お疲れ様」と車を見送る。
何してるんだろう…。
カーテンを閉めようとすると、“パタン”と音がした。
【101号室】の方向からだ。
「タキさん?」と下を見る。
タキは白い袋を持っていた。
そして、【104号室】の大家の声が微かに聞こえた。
「…多いね。なん…なに…すのかね」
途切れ途切れで内容は分からなかった。
次に聞こえて来たのは犬の鳴き声と「食べな。それは今日、あげれなさそうだから」と言うタキの声だった。
タキは外にいるから聞こえて来た。
“パタン”と言う音。そしてもう1回。
タキと大家の家のドアが閉まった音。
雨哥もカーテンを閉め、またビーズへと集中した。
別に特に気にならない。
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