(更新停止)時の狭間
「時の狭間にもルールがあるわ。」
そっと伸びてきた白い手。
それはまた私の首へと回された。
「…っ、。」
するり。
彼女は首を撫でる。
首をぐるりと囲んでいたあの腫れは、今はもう見えないほどに薄くなっていて。
しかし彼女はあたかもそれがあるかのように撫でた。
「ひとつ。」
私の首から手を離した彼女は、目の前にその白く冷たい指を出した。
そして人差し指を立てる。
「自分の生い立ちを話してはいけない。」
くつくつと喉を鳴らして、シオンさんは続けた。
「どうしてだか分かるかしら?」
小さく首を振った私に、彼女は満足そうに頷く。
「時の狭間に来た時は皆記憶を持っていないって言ったでしょう。だから、他人の生い立ちを聞くと勘違いしてしまうのよ。"自分もそうだったのかもしれない"ってね。」
「…聞いたことある。」
人間の脳はあることないこと、瞬時に造ってしまうのだと。
勿論それは脳内で造られた幻に過ぎないのだけれど。
「それほどに、ここに来る人には何も無いのよ。」
そう話す彼女は先程までとは違い、眉間にシワを寄せていた。
怒っているのとは違う気がする。
何かを毛嫌いしているような。
そんな表情。
「………分かるわね、くゆるちゃん。」
きゅっと握られた手。
それを辿れば当然のように彼女がいて。
「ユウがアナタに何を言ったのかは知らない。だけど惑わされてはいけないわ。」
見たことのないシオンさんの真面目な瞳が私を射抜く。
「分かったわね、くゆるちゃん。」
するり、するり。
また、彼女は私の首を撫でる。
今度は酷く愛おしむような手つきだった。