最後の恋って、なに?~Happy wedding?~

 いろんな意味で何が危なかったしいのか甚だ疑問だったけど、そこを問い詰めようって気もなく、またタクシーに乗り込んで自宅へと送ってもらった。

「今日はご迷惑とご心配をお掛けして本当にすみませんでした」
「いや、大事に至らなくて良かった」

 タクシーの後部座席に乗ったまま窓を開ける桐葉さんに玄関の前で改めてお礼を言いながら頭を下げると、彼はさっきよりは表情を柔らかく物腰も優しく答えてくれた。
 もう怒っている様子もなくてちょっと安心した。上司の立場として会社内で何かあれば彼のクビも危うかったかもしれないし、さすがにこんな事で露頭に迷わせるわけにはいかないから。

「頼むから次からは気を付けてくれ。と言うか次なんてあったら困る。もう勘弁してくれ」
「はい。私もそう思います」

 『痛いのは懲り懲りですし』と苦笑いをしながら『ではまた明日』と挨拶をすると、彼は思い出したように追加で声を掛けた。

「お前はお人好しみたいだが、アイツらに関しては放っておけばいい。これ以上お前が傷つく必要もないから」

 真剣な表情でそれだけ呟いたかと思うと、タクシーの窓を閉めてそのまま走り去ってしまった。
 どうしてあんな事を言ったんだろうか。

 何度か意味深なセリフを言う桐葉さんの気持ちがわからないままだったけれど、ケガをして疲れた私は深く考えずにこの日はすぐに体を休めた――――
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