ハートの確率♡その恋は突然やってきた
 ケンジさんはこれまで関係を持った男性と比べて、ちょっとだけどこかズレているところがある気がした。

 まぁ何を基準にして普通と言っていいのか分からないところがあるし、こういうことをしている私自身も、相当変なヤツだと称されてもおかしくない。

「……綾香さん、お待たせしました」

 ケンジさんは恐るおそるバスルームから顔を出して私を見たあとに、躰を小さくしながら出てきた。真っ白いバスローブを身にまとい、興奮を必死に抑えた表情を浮かべて腕を伸ばす。

 私はわざとその腕に捕まって、目を閉じながら顔を寄せてキスをした。触れるだけのキスを深いものにしようと、ケンジさんが顔の角度を変えたのを見、慌てて両手で躰を強く押し退ける。

 ここでさらに続きをしようと力技を行使する男に対しては、危険度が必然的に上がる。それを確かめるためのモーションだった。

 だけどケンジさんは、私を抱きしめていた両腕を空中で彷徨わせるだけで、近づこうともしなかった。危険度は低めといったところだろう。

「ちょっとの間だけ我慢してね。私もシャワーを浴びたいから」

「あ、すみませんでした。先走ってしまって……」

「いいの。すぐに済ませるから待っていてね」

 にこやかにフォローをする言葉を告げて、逃げるようにバスルームの中へと逃げ込む。

 ポケットに忍ばせていた髪留めを取り出して、肩のラインを超えた髪を束ねててから、身に着けている洋服をさっさと脱いでシャワーを浴びる。

 ケンジさんが待っている間に、枕に隠した防御グッズに気がついて、どこかにポイする恐れがある。まずはそれを防ぎたいのと、あまり待たせて興奮が頂点に達したあまりに、濡れてもいないのに挿れてくる人もいるからこそ、ここは手早く終えなければならなかった。

(すべては元彼の借金を返済するためなのに、どうしてこんな苦労を自ら背負わなきゃならないんだか――)

 自嘲気味に笑ってシャワーのスイッチをオフにし、躰の水滴をしっかり拭ってからバスタオルを巻きつけて部屋に戻る。

「お待たせ、ケンジさん」

「わっ、綾香さん。まっ待ってませんよ、全然っ!」

 しどろもどろに答えて座っていたベッドから腰を上げるなり、無意味に頭をペコペコ下げてきた。

「あのね、いきなりで悪いんだけど、先に前金を払ってもらえないかな?」

「は? 前金?」

「そう。お金を払うっていう口約束はしたけど、確実に払ってくれるという保証がないわけでしょ? だからHする前に、手付金が欲しくて」

 今は手持ちがないから、あとから金を支払うというお客だっているからこそのこの言葉。事前にサイトでいくらでヤるかという条件が分かっているんだから、手持ちのお金くらいはちゃんと用意しなさいよねって、心の中でいつも思っていた。

「済みません。実は3万円しかなくて」

「ううん、十分だよ。大丈夫」

 だって、いつもの倍の額ですもの。大喜びで受け取らせてもらうわ。
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