視えるだけじゃイヤなんです!
「わ……!」
 白黒の世界。その中で、覚さんの肩の上に温かい光がキラキラとかがやいている。あたしは目をこらした。

「……ヘビ?」

 覚さんの首から肩に、キレイな真珠色のヘビがまきついていた。
「ええ。ヘビよ。あたしの使い魔なの」

 覚さんは片手ですっとヘビをなでる。ヘビは気持ちよさそうに目を細めて、覚さんの手首にすりっと体をすりつけた。

「実は、アタシも石にさわったクチなの。ここみちゃんのと種類はちがうから、千里眼とかは使えないんだけど。大切なアイボウよ」

 あたしは手を戻すと、覚さんの肩の上をまじまじと見た。……うん、視えない。ってことは、あれは霊ってこと?

「アタシのは蛇石。ここみちゃんのは狐石。つまり、ここみちゃんも訓練すれば、自分だけのおキツネさまを使うことができるかもしれないわね」
「だめだよ、兄さん」
 透くんが苦笑しながらたしなめる。
「ここみちゃんには、今回だけって約束で力を借りたんだから。こっちの道に引きずりこんだらかわいそうでしょ」
「……そうね、ごめんなさい」

 覚さんは切り分けたチョコレートケーキを昭くんの前に置いた。あとのケーキはお盆に乗せて、ふわっとラップをかける。

「ケーキ、良かったら、お土産に持っていってちょうだいね。準備してくるわ」

 鼻歌を歌いながら客間を出ていく覚さんの背中を、あたしは目で追った。
 自分だけの、おキツネさま、か……。
 なんだか未だに信じられないんだけど、あたし、本当にすごいことに巻きこまれてたんだな……。



 学校を早退したにも関わらず、家に戻らずに夕方ケーキまでもって帰ってきた娘を、だまって許すお母さんじゃない。

 おそるおそる家に帰ったあたしは、お母さんの特大の雷を受けながら必死で言い訳をした。
 気分が悪くて、学校の友だちの家で今まで休んでいたこと。連絡を取らなかったのは、さっきまで寝ていたから。ケーキはおすそわけ!
 ウソじゃないもんね。ちょっと言ってないことがあるだけ。

 さんざん怒られて、次おなじことがあったらぜったいに連絡する約束をして、あたしはようやく解放された。

 自分の部屋に戻る。
 なんだか、こうしているとさっきまでのことがウソみたいだ。
 あたしは狐の窓を組もうとして――やめた。もし自分の部屋に何かがいたらぜったいイヤだし、それに。

「これは、もう使わない」

 うん。もう、こりごりだもん。でも……。

 あの女の子、助けてあげられたのは、よかったな。すごく辛かったけど。あの場所で化け物になっちゃう前で本当によかった。
 でも、これでもうおしまい。あたしはいつも通りの日常に戻るんだ。

 これで、いいんだよね……。


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