視えるだけじゃイヤなんです!
「透くん、あたし……お守りの中、見たよ。大きな目の絵と、そこにバッテンが描かれてた」

 あたしはポケットからお守りの中に入ってた木の札を取り出した。

「これ、透くんが描いたんだよね。あたし、この札からすごくイヤな感じを受けるの。これ、これって、もしかして……」

 声がふるえないようにあたしは浅く息を吸った。

「あたしの力を透くんが封じた……ってことだよね。そうだよね?」

 目に、バッテン。つまり、目を封じるということ。最初に狐の窓を教えてもらったとき、完全に視えなくする方法は呪いだって透くん、言ってた。
 この札のイヤな感じ……これは、あたしを呪ってるからなのかもしれない。だからあたしは視えなくなって、うなぎはすごく苦しんでた。

「……見ちゃったんだ。悪い子だね」

 一歩。透くんが前に出る。もうあたしは逃げ場がない。

「ここみちゃん」

 透くんの甘くてやわらかな声。あたしは急にびりっと体がしびれる。

「悪い子には、お仕置きが必要だね」

 透くんがあたしの手を取った。そのままカベにぐっと押しつけられる。

「全部ここみちゃんが悪いんだよ」
 透くんの周りに、白いもやのようなものが現れた。
……寒い。どうして? さっきまで真夏の気温だったのに。

「ここみちゃんが、昭の隣に立とうとするから、こんなことになるんだよ」
「あ……昭くんの……隣に……?」

 ギリっと音を立てて、透くんがあたしの手首をにぎりしめる。ことん、と音を立てて、にぎりしめていた木札が床に落ちる。

「とつぜん現れて、当たり前のようにその場所に立って。そんなのずるいよね。僕はどうしたらいい? 学校にも行けなくて、すぐ倒れるような病弱な体で、それでも役に立ちたかったからがんばってきたのに……!」

 叩きつけるように叫んだ透くんの言葉が、あたしの心にするどく突き刺さった。

 あ……あたし……。

 あたし、きっと透くんを傷つけた。昭くんに、「俺の目になってほしい」と言われて、あたしうれしかった。でも、きっと透くんは……!

「ここみちゃんの狐の窓を閉じれば、ここみちゃんは視えなくなるし、僕はまた昭の隣に立てる。だから、これでよかったんだよ」

 透くんの息が、あたしの鼻先にかかった。クスッと笑いをこぼされて、あたしはどうしていいかわからない。ドキドキして、体がしびれて、頭の中がぐちゃぐちゃだ。

 あたしは必死に自分の中で戦った。
 透くんの甘い声が、心地よく頭の中に染みていく。このまま流されたい。透くんの言う通り、視えない方がきっと……。

 ううん、だめだ。
 あたしは歯を食いしばった。

 確かにあたしは、透くんを傷つけたかもしれない。でも、それは力とは別の問題だ。あたしは昭くんの隣に立ちたくて強くなりたいわけじゃない。

 ただ、この力をあたしの大切な人たちを守るために使いたいんだ。
 そのためにあたしががんばるって決めたんだ。


 だから、こんなやり方で力を取り上げられてたまるもんか……!


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