忘れさせ屋のドロップス


私の唇から遥の唇が離れる瞬間に、……カロンとドロップスの音が聞こえた気がした。

「……は、るか」

どうして…………

「有桜?」

忘れてしまってたんだろう。


「遥、ごめん、なさ……」

ちゃんと言わなきゃいけないのに、涙で声がうまく紡げない。遥の背中に手を回して両手に力を込める。

「忘、れて……ごめんね」 

もう涙は止まらなくて、遥の顔もよく分からなかった。

遥が私の頬に触れる。涙を掬うように。


「有桜……?分かんの?……俺のこと」  

「遥、全部……思い出したの……ごめんさい……私……」 

「……そっか、分かんのか」

確かめるように遥の瞳が私を映す。遥が目を細めて笑った。 


「遥……抱きしめて」 

遥は私をキツく抱きしめた。

「もう離さないから」

遥は息ができないほどに強く、私を抱きしめてくれた。
 
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