忘れさせ屋のドロップス
★  
呼吸も体温も全部が混ざり合っていく。

別のもの同士の心臓と心臓は少しずつ溶けて混ざり合って、こうやって一つになるんだと私は知った。

「は……るかっ……」

それは熱を帯びた唇から、心まで伝染して、ひどく切なくて、一つになった頃には怖くてたまらなくなる。


ーーーーもう何一つ忘れてしまいたくなくて。  

「有桜、いいよ」

「はる……ンッ……」

遥の唇と共に、押し寄せた熱の波は、私の全部を攫っていく。 

どうして、これ以上は遥の近くに行けないんだろう。

遥の心臓と一つになれたなら、この苦しさも寂しさも合わさって泡のように消えてなくなるんだろうか。
 
遥が私の中に入ってきたのは分かったのに、出ていくのはわからないまま、私の意識は宙に舞った。

有桜って、初めてちゃんと名前を呼んでもらえた気がした。

有桜の側にいるから。

大切だから。

遥の声が耳元で、そう聞こえた気がした。
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