忘れさせ屋のドロップス
トントンと階段を降りていくと、母が洗濯物を取り込んで畳んでいるところだった。

「あ、お母さん手伝うよ」

「じゃあ、有桜はタオル類畳んでくれる?」

「分かった」

私は母の真向かいに座って、タオルを手に取った。

ーーーーあの日、遥の家からこの家に戻ってきてから、お母さんは私に対して何も言わなかった。

家を出たことも、連絡を無視してたことも、聞くこともなければ、怒ることもなかった。

会話こそなかったけれど、食事が喉を通らない私に毎日ご飯を作って、部屋の前に置いてくれていた。

オンライン授業に参加しながら、半年ほどそんな状態が続いた。

人並みまでとは、いかないのかもしれないけれど、お母さんとの会話も少しずつ増えた。何よりお母さんは男の人を頼らなくなった。前よりも私をちゃんと見てくれるようになって嬉しかった。

休みの日はお母さんが料理をしてくれて、仕事の日は私の担当だ。お母さんと二人で一緒に食べる食事なら、作る事も苦にならなかったし、寂しくなくなった。

「有桜、紅茶入れるから、少し座ってくれる?」

「どうしたの?」

「話しておきたいことがあるから」

洗濯物を畳み終わると、お母さんは、ティーポットにお湯を注いだ。
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