忘れさせ屋のドロップス

「あ、たまごサンド大好きー」

 テーブルに置いておいた、タッパーに詰めただけのサンドイッチとスープジャーを持つと、渚さんがにっこり笑った。

「ありがとね」

「あ、そんな全然……」 

「で?朝から遥に何された?」

 顔が真っ赤な私をみて、楽しげに渚さんが唇の端を上げた。

「誤解生む言い方やめろよな、勝手に有桜が、ひっついてきたんだよな?」 

 ドロップスを転がしながら、遥が意地悪く、口角を上げる。

「俺は、ガキの桜色パンツなんて、どーでもいいんだけどな」

 見られてた……。恥ずかしくて顔が熱い。 
 渚さんが、そうゆうことか、と笑った。

「じゃあ、遥、アタシは行けないけど。秋介に宜しく!」

「待ち合わせてねーから」

「あっそ、じゃ有桜ちゃんまた帰りに寄るね」

 遥から奪い取るようにして抱えたカゴをそのままに、遥をちらっと見た。

 遥は、スマホ片手に難しい顔をしていた。
 多分、お客さんからの連絡だ。一緒に暮らし始めてもうすぐ一ヶ月。

 遥は週に2、3度は相変わらず朝帰りをする。それは、女の人からの忘れさせ屋、遥への依頼。一晩一緒に過ごして遥は朝帰ってくる。

 遥は何も言わない。ただ

「有桜ー、ごめん、飯いらない」 

 それだけ口にする。 

 いつもの口調で。なぜだが心臓がちくんと針を刺したように痛む。

 きっと痛いのは……遥のほうなのに。 

「拗ねてんの?」 


 目の前にしゃがみ込んだ遥が、私の頭に掌を乗せた。口を開いたら急に涙が出てきそうだったから、私は首を振った。


「あっそ。……ま、洗濯物は有桜の担当だからな、今後はお任せするってことで」

 遥が私の頭から掌を離す。
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