君を手に取る1秒前
平和な日常
「おはよう、紗奈。」
「おはよう、健人。」
付き合い初めて半年の楠木紗奈と栗原健人は、いつもの様に挨拶をする。
2人は美男美女であり、通っている暁葉高校(あきはこうこう)を代表するカップルだ。
「わっ、”さなけん”だ。今日も美男美女だね。」
「いーなー、俺も彼女欲しい!」
朝2人で歩いていると、色々な事を必ず言われる様にもなった。
2人は高2で、高1の時に付き合い始めた。
同じクラスで隣の席な2人は、いつものように荷物を片付ける。
「なあ紗奈。今日どこか行く?」
「いいよ。どこ行く?」
「アイスでも買って海行く?」
「じゃあ、行こっか。」
クールで大人しい2人の会話は、基本的に落ち着いている。
それでも、デートとなったら心の中は舞い上がっていた。
「キーンコーンカーンコーン……」
下校のチャイムが鳴り、2人は隣に立って歩き出す。
「じゃあ、行くか。」
「うん。」
近くのコンビニでそれぞれソフトクリームを買い、溶けないように足早に海へ向かう。
浜辺に座り、アイスの袋を開ける。
「冷たっ……」
「ふっ、ちょっとずつ食べろ」
「もう、だって溶けちゃうじゃん。」
そう言いながら2人はあっという間にアイスを完食し、海へ足を入れる。
「気持ちいいな。」
「ふふっ、そうだね。」
ほのかに笑う紗奈を見て、健人は少しばかりイタズラをしたくなり、紗奈に海水をかける。
「パシャッ」
「きゃっ……もう、健人やったね?」
「パシャッ」
「おい!」
「健人が悪いのよーだ。」
お互いに海水をかけながらじゃれ合う。
すると2人ともシンクロの様にバランスを崩し、砂の地面へと尻もちをつく。
「ふっ……あー、服濡れたじゃねえか」
「あはっ、ふふっ。健人めっちゃ濡れてる!あははっ」
普段ここまで笑わない紗奈を見て、見とれる健人。
その様子をオレンジ色の太陽が照らす。
「あ、もう日が暮れるね。でもこんな服で帰ったらお母さんに怒られそう。」
「自業自得だよ。」
「酷くない!?」
文句を言いながらも、それぞれの家に帰った。
この幸せを、2人は続けたかった。
でも、紗奈に異変があったのは、その翌日の事だった。
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