わけあり家令の恋
「おはようございます、旦那様」

 初めて見る室内はカーテンがあけられ、窓から明るい日差しが降り注いでいる。

 奥には庭に出るための大きなフランス窓があって、その前に長身の青年が立っていた。
 逆光の上、こちらに背を向けていたが、均整の取れた男らしい体つきをしているのが見て取れた。

「初めまして。桜子でございます。こうして会ってくださって、心からお礼を申し上げます」
「おはよう、桜子さん。長い間あなたを待たせてしまって、本当に申しわけなかった」
「とんでもございません」
「毎朝おいしいお茶を届けてくれてありがとう」

 まだ本調子ではないのか夫は背を向けたままで、声も少しくぐもって聞こえた。

 どこか聞き覚えがあるような気もしたが、私にそれを確認する余裕はない。
 これからのことを思うと、緊張で今にも倒れてしまいそうだったのだ。

「い、いえ。何もできませんでしたので。もうお体の具合はよろしいのですか?」
「ええ、すっかり落ち着きました。心配させて申しわけない」

 夫婦といっても名ばかりで、お互いの顔さえ知らない二人は会話もぎこちない。その後はしばらく沈黙が続いた。

 とはいえ、私がここに来たのには理由がある。
 意を決して自分の意志を告げようとした時、「そこに座ってください」と促された。
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