わけあり家令の恋
「実は……お慕いしている方がいるのです。ですから旦那様のおそばにいることはできません」
「想い人がおられる。なるほど」
わずかな間が空き、低いため息が聞こえた。
「その方とはこちらにいらっしゃる前から――」
「いいえ!」
咄嗟に否定してしまってから、私はひどく慌てた。
結婚前からの付き合いでなければ、加瀬家で該当する相手は杉崎しかいない。
男性の使用人は他にもいるが、私と接していたのは彼だけだ。何としても杉崎に迷惑をかけるわけにはいかなかった。
「わたくしが勝手にお慕いしているだけで、相手の方は何もご存じないのです!」
それ以上は耐えられず、私はその場に膝をついた。
「本当に申しわけございません。何とお詫び申し上げればいいかわかりませんが、どうぞわたくしを離縁してくださいませ」
目元が熱くなり、頬を涙が伝う。
私がうなだれていると、足音がゆっくり近づいてきた。
「桜子さん」
夫が跪き、私の両肩に手を置いた。
「顔を上げてください。謝らなければいけないのは私の方です」
間近で響く声は穏やかで優しく、よく知っているものだった。
(えっ?)
そっと抱き寄せられ、私はうろたえながら顔を上げる。
「すぎさ――」
そこにいたのは杉崎だったが、彼は困ったような表情で私の唇に指を押し当てた。
「いいえ、杉崎ではありません。私は加瀬亮介です」
「想い人がおられる。なるほど」
わずかな間が空き、低いため息が聞こえた。
「その方とはこちらにいらっしゃる前から――」
「いいえ!」
咄嗟に否定してしまってから、私はひどく慌てた。
結婚前からの付き合いでなければ、加瀬家で該当する相手は杉崎しかいない。
男性の使用人は他にもいるが、私と接していたのは彼だけだ。何としても杉崎に迷惑をかけるわけにはいかなかった。
「わたくしが勝手にお慕いしているだけで、相手の方は何もご存じないのです!」
それ以上は耐えられず、私はその場に膝をついた。
「本当に申しわけございません。何とお詫び申し上げればいいかわかりませんが、どうぞわたくしを離縁してくださいませ」
目元が熱くなり、頬を涙が伝う。
私がうなだれていると、足音がゆっくり近づいてきた。
「桜子さん」
夫が跪き、私の両肩に手を置いた。
「顔を上げてください。謝らなければいけないのは私の方です」
間近で響く声は穏やかで優しく、よく知っているものだった。
(えっ?)
そっと抱き寄せられ、私はうろたえながら顔を上げる。
「すぎさ――」
そこにいたのは杉崎だったが、彼は困ったような表情で私の唇に指を押し当てた。
「いいえ、杉崎ではありません。私は加瀬亮介です」