細胞が叫ぶほどの恋を貴方と
崩れる

 そんな風に穏やかな時間を過ごして、季節が変わった頃だった。

 突然末永さんから「しばらく会えない」という連絡が入り、わたしは数ヶ月ぶりに、仕事をして部屋に帰り、食事をとってお風呂に入って寝る、という当たり前の日々を送ることになった。

 ほんの少し前までは、何年も続けた日常だったのに、末永さんと過ごすことが当たり前になっていたせいで、想像より遥かに寂しい。
 せめて休日くらいはクヴェレで過ごそうと、いつもより早い時間に訪ねたら、臨時休業の貼り紙があった。
 オープンから一年半、通い始めて一年と少し。こんなことは一度もなかったのに。

 怪我をしたり急病に罹ったりしたのではないかと不安になり、香代乃さんにメッセージを送ってみたけれど、返信はない。
 次にケイさんにもメッセージを送ると、すぐに電話がかかってきて「怪我でも病気でもないから大丈夫だよ~」といつも通りの呑気な声で教えてくれた。

「そうなんですね、店に行ったらお休みだし、連絡も取れないから不安になってしまって」
「んー、あと数日は忙しいだとうし、返信は期待しないほうがいいよ」
「あ、用事でお出かけしているんですね」
「うん、カヨちゃんのお母さんのお葬式」
「お母さまの……」

 何も知らなかったとはいえ、メッセージにスタンプまで付けてしまったことを反省していると、ケイさんが突然「ユキトさん何も言わずに行っちゃったの?」と彼の名前を出した。

「急いでたとはいえ、一言くらい伝えてもいいのにね」
「いえ、まあ、しばらく会えないとは言われました……」
「あー、そうなんだね。しばらくカヨちゃんの実家に泊まるみたいだから。ユキトさんに会えなくても心配しないで待ってなね」
「はあ、はい……」

 このとき、また胸の奥の奥辺りがチリチリと痺れだし、心にもやがかかったような不安に襲われた。
 質問すればケイさんは当たり前のように答えてくれるだろう。けれどその答えは、決して良いものではないと分かる。分かってはいても、聞かずにはいられなかった。

「どうして末永さんが、香代乃さんのご実家に泊まるのでしょうか」

 この質問に、やはりケイさんは当たり前のように答えてくれた。

「普段は別居してるとはいえ、一応夫婦だからね。夫婦としてお葬式に出席するんだから、夫だけ帰宅ってのはちょっとね」

 質問の答えが良いものではないと察していた。けれどそれは想像を絶する。
 末永さんと香代乃さんは夫婦だという事実だった。

 末永さんと身体の関係を持っていたわたしは、知らず知らずのうちに不倫をしていて、それを本人からではなく、ケイさんから聞かされたのだ。


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