細胞が叫ぶほどの恋を貴方と

「ねえ、キコちゃん。あなたユキトのこと、どう思う?」
「……え?」
「ユキトと会って、どう思った?」

 香代乃さんがどうしても話したかったという話題の内容は、想像できていなかった。けれど店やケイさんについてだろうと、何となく思っていたから、ここで末永さんのことを聞かれるのは、全くの予想外。

 予想外過ぎて取り繕うこともできず、わたしは視線をふわふわさ迷わせ「どう、とは?」とぎこちなく答えた。
 その反応に、香代乃さんもほっと息を吐く。

「良かった。嫌がってはなさそうね。本気で嫌がっていたら、隠そうとしても少しくらいは顔に嫌悪が浮かんでしまうものね」
「……」
「特に昨日、だいぶ失礼なことをしちゃったでしょう」
「……」

 言われて、昨夜のことを思い出す。下腹部に感じた、明らかな雄のことだ。親とテレビを見ているときに唐突にラブシーンが映し出されたような気まずさを感じ、押し黙って視線を下げる。

「ユキト、キコちゃんが帰ったあと、蹲って絶望していたから。ユキトとの付き合いもそれなりに長居けれど、あんな姿は初めて見たわ」
「……」
「いっつも涼しげな顔をしているユキトが、蹲って落ち込んでいる姿は面白かったけど、同時に凄く驚いた」
「……」
「ねえ、キコちゃん」

 呼ばれて、ゆっくり視線を戻す。香代乃さんはとても真剣な表情で、瞬きもなく、しっかりとわたしを見据えていた。

「私にとってユキトは大事な存在だから、キコちゃんさえ良ければ、ユキトのそばにいてあげて」
「……」
「涼しい顔をしているだけで、心はたぶんズタボロで、私じゃユキトを癒せない。だからキコちゃんに、その役目を託したい」
「……託していただいても、末永さんとは昨日、しかも数分間会っただけですし、わたしに務まるかどうか……」

 そもそもこれを、末永さん不在のこの席で決めてしまってもいいのだろうか。
 不安で声をフェードアウトさせたわたしに、香代乃さんは眉を下げ、優しく笑いかける。

「気負わなくていいの。キコちゃんがユキトを気に入っているなら、しばらく一緒にいてやって。話すだけでもいいし、話さなくてもいい。同じ部屋で本を読んだり映画を観たり食事をとったり。心を解してあげて。そうしたらあとはユキトがどうにかするでしょ」
「はあ、はい……」
「勿論、キコちゃんが嫌ならやめてもいい。そうなってもユキトが何とかするでしょ。いい大人なんだから」
「はあ、はい……」

 まだ不安はあるけれど、とりあえず頷いて了承を伝えたわたしに、香代乃さんは安堵の息を吐き、最後にこう言った。

「キコちゃんの心に従って。私の大事な存在を頼むわね」


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