片翼を君にあげる③
***

お茶をすませて隠れ家に戻った私は、ジャナフ君と別れて最高責任者(マスター)の部屋へと向かっていた。
その最中にも、さっきまでの優しい時間を思い出して、ほんの少し表情が緩む。

「また、一緒にお出掛けしましょう!」

別れ際、そう言ってくれたジャナフ君。
今すぐに瞬空(シュンクウ)への気持ちを割り切って、答えを出す事はきっと難しい。
けど、ジャナフ君の優しい心に触れた私は、少しずつだけど新しい道へと歩む事が選択肢に生まれ始めていた。

……
…………でも。

やっぱり貴方は、私に簡単に忘れさせてはくれないのね。

最高責任者(マスター)、ノゾミです。只今戻りました」

ノックをして、「入りなさい」と言う返事を聞いて扉を開けると、椅子に座っている最高責任者(マスター)の雰囲気に私はハッとした。
真剣な表情とピリッとした空気。これは絶対に何かがあった、と、確信する。
緩んでいた表情と気が自然と引き締まると、そんな私を察したように最高責任者(マスター)が告げた。

「ツバサと瞬空(シュンクウ)の下剋上の再戦日程と、勝負内容が決まりました」

ドクンッと大きく高鳴った鼓動。
けれど、その次の最高責任者(マスター)の言葉で、私は自分の中の時間が一瞬止まったかのような錯覚に陥る。

「日程は三日後。
勝負内容は、瞬空(シュンクウ)が挑むミライとの下剋上で、どちらが勝つかツバサに賭けてもらいます」

「……。…………え?」

瞬空(シュンクウ)がミライに下剋上を挑みます。
ツバサには、その二人のどちらに軍配が上がるか、当ててもらう。それが、再戦の内容になりました」

「ーー……っ」

最高責任者(マスター)の言葉が聴こえているのに、私の頭は理解出来ずに混乱していた。

瞬空(シュンクウ)と兄は同じ白金バッジだ。
確かに仕事の実績での順位はあるものの、地位は同じと言っていい。
つまり、白金バッジ同士が下剋上する意味はなく、もちろん今までにない異例な事態だ。

瞬空(シュンクウ)
一体、何を考えているのーー……?

そんな勝負をする意味も。
彼の本当の気持ちも、この時の私にはまだ分からなかった。
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