*結ばれない手* ―夏―

[40]継ぐ者と継がれる物

「まったく……うちのドーベルマンだってそんな風に吠えないわよ」

 ──このお姉さん、ドーベルマン飼ってるんだ……。

 二人掛けのソファにモモと凪徒、その端で無理やり身を縮こませている秀成は、変なところに引っかかりながら怖々(こわごわ)と凪徒の顔を見上げてみた。

 ──やっぱり悪魔だ……。

 今にも噛みつきそうだと思いながら、再び下を向く。

「あんた達が結婚しようがどうしようが構わないっ、がっ! 何でその日が十月二十六日なんだ!! 二人して兄貴を馬鹿にしてるのかっ!?」

「その日を選んだのは、杏奈だ」

 やや隼人の方に傾けられていた凪徒の視線が、キッと杏奈を照準に選んだ。

「馬鹿にだなんて……私の心は今でもタクのものよ」

「はぁ!?」

 拓斗の父親である隼人と結婚すると言いながら、亡き人に愛があると断言する杏奈。

 さすがに隼人以外のメンバーは、脳内がハテナだらけになって固まってしまった。


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