*結ばれない手* ―夏―

[4]脅迫と誘惑

★前回お伝えし忘れましたが、杏奈の名は「桃(色)」「桜(色)」と来ての「(あんず)(色)」でございます(笑)。






 しばらく唖然と傍観しているリンも含めて、四人の間には張り詰めた空気が流れていた。

 杏奈以外、誰もが声すら出せずにいたが、モモの(うなず)きは「どうにか解放してほしい」と願うように続けられていた。

「どうも圧政が敷かれているようね……まぁいいわ。じゃ、また来るから」

 杏奈はあっさりと(あきら)めて背を向けた。

 スタイルも足取りも洗練されたその影が、プレハブの角を横切り消えてゆく。

 それを機に凪徒の立ちはだかる腕はようやく戻され、モモは良く分からない疲れたような溜息を吐いた。

「モモ」

「は、はい……」

 凪徒が相変わらずの怖い顔をして、こちらを見下ろしているのは感じられる。

 けれどどうにも視線を合わせる気持ちになれずにいた──目の前で起こった今の事件よりも、昨夜の辛い一件から。


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