*結ばれない手* ―夏―

[11]否定と集中

 ──こいつには一切筒抜けなのか……?

 凪徒は二の句が継げないまま、心の裏側で当惑した。

 しかしここでぼんやりしていたら勝手に肯定されてしまう。

 硬直した唇を何とか動かし、

「……あいつは『コレ』でも『ソレ』でもない上に、女でもなければ、人間でもないっ!」

「は……?」

 振り絞った言葉に、暮は思わず口をあんぐり開けてしまった。

「……何だ、それ? お前よっぽどその美人を嫌ってるんだな」

「もう……これ以上あいつの話はよしてくれ」

 疲れたように顔に手を当て、正面に立った暮の身体を退()かして歩き出す。

 暮はやれやれと言った調子でその後に続き、

「わーったよ。もうこの話はしない。あんまりお前を困らせると、モモをブランコから落とされかねないからな」

「誰がそんなヘマするか」

 既に朝食の準備全てを仕上げてしまったモモが、食堂プレハブの入口で待っていた。

 他の独身組はもう食事の最中だ。

 凪徒は歩みの先にある少女の笑顔も、後ろについて来る暮の気配も一切遮断した。

 部屋に入り、黙々と口の中へ料理を放り込んだ。



 ☆ ☆ ☆


< 46 / 178 >

この作品をシェア

pagetop