*結ばれない手* ―夏―

[14]半月と眼差し

 闇に(まぎ)れた寝台用の車両は無人だった。

 おそらく近所の銭湯にでも行っているのだろう。

 敷地内にはシャワールームもあるが、夜の貸切公演のない時にはそういった所でのんびりすることも多い。

 凪徒は車の側面に寄りかかって、独りぼんやり半分に欠けた月を見上げていた。

 この二日のことを一つずつ思い出しながら、自己の(あやま)ちを反省した。

「……先輩?」

 一時間も経った頃、タオルを肩に掛けた女性四人が戻ってきて、その先頭のモモが呼びかけた。

 左目は眼帯で覆われて痛々しい。

「わりい……これから付き合えるか?」

「あ……はい」

 後ろの女性達は二人の様子を見て、ニヤニヤしながらモモの荷物を預かり、いそいそと車内に戻っていった。

 凪徒はジャージのポケットに両手を突っ込んだまま歩き出し、モモもそれに続いた。

 暮に(はた)かれた敷地の隅まで進んで足を止め、もう一度月を見上げる。

 が、後ろで立ち止まったモモの方へなかなか振り返る気持ちになれずにいた。

 すると、


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