*結ばれない手* ―夏―
「リンちゃんも早いね。どこか出掛けるの?」

「ううん。その逆ダヨー、もう出掛けてきたの。これから眠るー」

「え?」

 確かにその瞼は夜更かししたように腫れぼったい。

 それでもはにかんだ笑顔は随分幸せそうだ。

「ヒデナーとずっとキラキラの星空見てたの~綺麗だったヨー」

 そう話すリンの瞳こそキラキラと輝いていた。──が、“ヒデナー”って?

「あ、秀成君のこと!?」

 音響照明係の秀成。眼鏡をかけた大人しいパソコンおたくだ。

「え? やだ~モモたん、気付いてなかったの? ワタシ達ラブラブなんヨ」

 ──し、知らなかった……と言うより、気付いていないことに驚かれるってことは、みんな知ってるんだ……あたし独りが遅れてるってこと?

 モモは自身の(うと)さ加減にいささか落ち込んでしまった。

 驚き見開いた大きな(まなこ)を、昨夜のように抱え込んだ膝小僧に移す。


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