*結ばれない手* ―夏―
「桜家と三ツ矢は昔からライバルでありながら、それなりに親交も深かったの。本家はとても近い所に在って、良く三人で遊んだわ。それを見た父親同士が勝手に私達の婚姻の約束を交わしたけれど、そんなものはなくとも私とタクはお互い好意を持っていた。だから特に反論もなく約束は続いていたの。……『あの日』までは」

「あの日……?」

 杏奈は両手で頬杖を突き、一度大きく息を吐き出した。

 溜息のような、決意のための準備のような……そしてテーブルに下げていた視線をモモの面前に持ち上げた。

「七年前……タクが自分で自分の命の期限を決めたあの時まで、ね」

「……期、……限?」

 モモは杏奈の言葉の意味を知りたくないと心の隅で感じていた。

 目の前の女性の表情は哀しくて(わび)しそうで、そして──大切なものを失ったという深い喪失感がまざまざと現れていたからだ。


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