恋、煩う。

「え……?」

わけも分からずただ顔を上げると、どこか気まずげな視線が横に逸れた。

「……実は、とある報告を貰っててな。君と松崎くんが、あまりにも親密過ぎるのではないか、と」
「……」

米山さんだ。いや、違うかもしれない。他の部署から見ても、普通じゃない部分があったのかも。
どちらにせよ、窮地に立たされている。それだけははっきりと理解出来た。

「違うんです、部長」

もう、何をどう説明しようかなんて順序だてても居ない。
ただ何かしらの否定をしなければ。最早脊髄からの指示で口を開いたような私を、部長は片手を上げて制した。

「いや、君のことは信じてる。疑ってないよ。でも、一度立った噂は中々消えない。勿論この昇進は、僕が相談を受ける前に決まっていたことだから何も関係はない。だが、どうだろう、これを良い機会と捉えてもらえないか」

第二の本社には君が必要なんだ。
そう、真剣な声で言われて、私は──。



「谷田部部長の栄転に、かんぱ〜い!」

もしかしてもう酔ってる? と聞きたくなるような陽気な田中の声と、グラス同士がハイタッチする音。
クリスマスも年末も一緒くたにしたような飾りが街中を彩る中、忘年会という名の飲み会が開かれていた。

「まだ正式な異動まではもう少しあるけどね」

苦笑しながら、のど越しだけが取り柄の黄色い液体を流し込む。
この数か月、目まぐるしく日々は流れた。
結局私は転勤を決め、部署内のメンバーには早々に伝えた。私の仕事は暫くの間部長が兼務することになり、私は年明けから、春の本格的な稼働に向けてあっちこっちを行ったり来たりすることになる。
皆、突然の話に驚いていた。……松崎くんでさえも。
事前の相談なく大事なことを決めてしまった私を彼がどう思ったのか。それを知る術は、もう無かった。

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