恋、煩う。

く、と皮肉げに歪められた唇が、避ける隙も与えられず私の渇いたそれを食んだ。
フリーズしていた思考がやっと溶け、慌てて押しのけようとすると、逆にその手を握られ封じられてしまう。
至近距離で伏せられた長い睫毛が震え、鉱石のように硬く冷たい眼が呆然とする私を見つめた。

「苦しくて泣いてる沙織さんでさえ、俺にとっては興奮の対象でしかなかった。……引きました? でも、見抜けなかった沙織さんが悪いんですからね。沙織さんのためならどんなことでもしてあげられる。そう言ったのは嘘じゃないですけど、今回の願いばかりは聞かないですから」

ざまあみろ。冷然な瞳はまるでそう吐き捨てるようだった。
そして、混乱の渦中にいる私へ消えない傷をつけるように、彼はまた私の唇に犬歯を突き立てた。






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