恋愛のススメ
はぁぁっと勝手に漏れ出たため息は夜空に輝く夏の大三角形へと消えていく。

よく春馬と遊んだ公園も今日は花火の日だからか、夜だからなのか、誰もいない。

「どした?今日は一段と凄い溜息だったぞ」

ポケットから、カットコームを取り出しながら春馬が、今から花火見れんのかよと、ぷっと笑った。

「笑わないでよ、だって進路が決まらないんだもん」

「あ、それな。進路希望の締め切り、来週までだっけ?」

「うん。橋本先生から、せっつかれてるけど」

橋本先生と向かいあうと進路どころじゃくて、ドキドキでいっぱいになる。

私のことを心配してるって言ってくれてたのは、生徒としてだとは思うけど……ほんのちょっぴり期待もしちゃう。

目で追えば目が合う時があって、たわいのないことで先生が、だから真理亜は心配なんだって言われたりすると心臓が踊り出す。

「こっち向くなよ」

面倒くさげに、後ろから投げかけられた言葉に黙ったまま、色のハゲたベンチに座ってる私は半身横に向ける。春馬が、慣れた手つきで、髪を梳かしていく。

「真理亜はさ、将来の夢ってないの?」

「どしたの?夢?……」

「何かあるだろ?一個くらい」

「うーん……私、何の特技も無いしな、平凡でいいから、誰かのお嫁さんかな」 

暫く考えたけど、そんな夢と呼べるのかわからないモノしか浮かばなかった。

「変わんないな、真理亜は。中身もくせっ毛も」

クククッと春馬が笑って、春馬が手に持っている私の胸まである長いくせっ毛も揺れる。

「えー、春馬ヒドイ。私、くせっ毛も何の取り柄もない自分が嫌なのに……。で、ねぇ……春馬、あとどの位?」

浴衣だから半身横を向くと、帯が締まった気がして少し苦しい。

「大丈夫?すぐできるから」

私が頷くと、春馬が一気に髪をかき上げてつむじに向かって手際よく纏めていく。

「夢か……小さい頃はあったと思うんだけどな」

大三角形を上目遣いで眺めながら、独り言のように呟いた言葉に、春馬が後ろから言葉を重ねた。

「小さい頃書いただろ?忘れたのかよ?」

「え?……あ、幼稚園だっけ?」
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