プリザーブドLOVE  ~けっして枯れない愛を貴女に~
第1章 煙草
 額に受けたキスで、微睡(まどろみ)から引きもどされた。

「帰るよ、杏子。寝てていいから」
「うん……」
「明日……もう今日だな。はじめてのクライアントと打ち合わせがあるから、ちゃんと定時に来いよ」
 声を出すのも億劫で、わたしは寝そべったまま手だけ振った。


 ガチャっと鍵のかかる音ともに、今まで部屋のなかに濃厚に漂っていた人の気配が瞬時に消えうせる。

 夜の静けさを破るエンジンの音が徐々に遠のき、それからまた、おそろしいほどの静寂が戻ってくる。

 こんな夜を、付きあって7年になる男と、もう何度も繰りかえしてきた。
 
 彼はけっして、この部屋に泊まらない。
 どんなに遅くなっても必ず、妻子の待つ自分の巣へと帰っていく。
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