《書籍化》国を追放された【聖女】は、隣国で天才【錬金術師】として暮らしていくようです

第18話【助け】

「エリス! エリスってば!」
「う……うーん。まだ眠いの……もう少しだけ……」

「エリス! 冗談やってる場合じゃないよ! 起きてってば! ……しょうがないなぁ。あ! あそこにすっごく美味しそうなお菓子が!!」
「え!? うそ! どこどこ!? どんなの!?」

 エアの言葉に飛び起きた私は辺りを見渡す。
 美味しそうなお菓子を探すけれど、目に入った机の上には水差しとカップ以外に何もない。

「ちょっと。エア。お菓子なんてどこにもないじゃない!」
「はぁ……いい加減に思い出してよ。エリスは変な男に気絶させられて誘拐されちゃったんだよ」

「あ! そうだった! 大変! エア! 私どうなっちゃうの!?」
「どうもこうも……ひとまずここから逃げ出すよ」

 状況を思い出した私はもう一度周りを見渡す。
 部屋は自分が寝ていた質素なベッドを二台置いたら他に何も置けないほど狭く、机の他にあるのは鉄格子がはまった窓と頑丈そうな入り口だけだ。

 ふと目線を下げると、自分の両手が身体の前で手首に縄をつけられた状態になっていることに気付いた。
 このままでは何かをするのも大変そうだ。

「どうしよう。エア。どうすればいい?」

 犯人は何が目的なのか分からないけれど、誘拐されるという初めての状況に、私は少しパニックになってしまった。
 頼りになるのはエアだけだと、今にも泣きそうな気持ちで問いかける。

「ひとまず落ち着きなよ。僕がついてるから。と言っても、エリスも知っての通り、精霊の僕が直接何かするってことはできないからね」
「うん。でも、逃げるにしてもあそこのドアはきっと鍵がかかってるだろうし、そもそもこの手じゃあ……」

「まずはその縄を解かないとね。エリス。風の精霊と火の精霊の力を使って、縄を風化させてご覧」
「え? そんなことが出来るの?」

 エアが言う通りに精霊力を縄に込める。
 すると、しっかりしてビクともしなかった縄がボロボロと崩れ始め、やがて千切れてしまった。

 自由になった手で交互に手首をなでる。
 余程きつく締めていたのかくっきりと痕ができていた。

「ふぅ。これで手は自由になったけど、出られないことは変わりはないわ。これからどうしよう?」

 先ほどと状況はあまり変わらないけれど、気持ちは少しは前向きになれた。

「今の要領でそこのドアの鍵を壊すこともできるけど、ここから出る際に誰かに会ったら意味がないからね。まぁ、ここでしばらく待っていればいいよ。すぐに助けが来るから」
「え? 助けが来るって……?」

 私が問いかけてもエアは楽しそうにしているだけで、何も答えない。
 少なくとも意味もなくおかしなことをいうようなことはないと知っているから、私は言われた通り大人しく待つことにした。

 どのくらい待っていたか分からないけれど、何かがぶつかり合う音や倒れる音、そして人々の叫び合う声が聞こえ始めた。
 それはだんだんと近づいてくるように感じる。

「さぁ、来たようだよ。入りやすいようにそこの鍵を開けておいてあげようか。今度は水と土の精霊の力を使って腐食させよう」
「う、うん。なんだかよく分からないけど分かった」

 私は扉についた鍵に手を当てると精霊力を込める。
 金属の光沢を持っていた鍵は、黒く変色し、やがてボソボソと崩れるように剥がれ落ちていった。

「危ないから少しドアから離れておこう。やぁ、案内役が来たみたいだよ」

 エアの言葉に目線を下げる。
 すると閉じたままのドアをすり抜けるように赤いトカゲのようなものが部屋に入ってきた。

「サラマンダー!?」
「キュィ!!」

 どうやら私とサラマンダーは話すことはできないようだ。
 ローザ様とは話すことができると以前エアが言っていたから、縁を持つもの同士だけなのだろうか。

 足元で頭を下げるような仕草をしたサラマンダーを、両手で抱き上げる。
 右肩にはすでにエアが居るので、空いている左肩に乗せてあげる。

「キュ、キュイ!?」
「いいよ。別に。エリスがしたくてしたんだから、気にすることないさ」
「キュキュイ!!」

 エアとサラマンダーの間に何かやり取りがあったみたいだけれど、サラマンダーの言うことが分からないので気にしないことにした。
 その後すぐに聞き慣れた声が聞こえてきたので、ドアにぶつからないよう身を少しだけ引いた。

 ドアが勢いよく開き、武装した人たちが複数人入ってきた。
 私以外に人がいないことを確認してから、安全だと後ろに控えた人物に声をかける。

「エリス!! 良かった! 無事だったんだね!!」
「アベル! どうしてここに!?」

 入ってきたのはアベルだった。
 アベルは私の方へ駆け寄ると、私を強く抱き締めた。
< 18 / 21 >

この作品をシェア

pagetop