オリオンの夜に〜禁断の恋の果ては、甘く切なく溶けていく〜
第4章 疑惑と溢れる想い
昨日は明香の寝顔を、見ながら、俺は、なかなか寝つけなかった。理由は分かってる。

社長室までの廊下を歩きながら、俺は、昨日の明香の言葉を思い出していた。

『寝るのは別にしたよ……』

同窓会の夜、冬馬も別々の部屋で寝たと言っていたが、恐らく明香は嘘をついてる。冬馬もだ。
明香は、俺に滅多に嘘は吐かないが、つくときは、少しだけ鼻が動くから。

クセみたいなものだ。これだけずっと一緒に居ると、明香のことなら、大抵のことは分かる。

本当は同じ部屋に泊まったのか?今でも一緒に暮らしてる兄妹だ、別に同じ部屋でもいいような気もするが、二人は俺に気を使ったのだろうか?

毎晩のように俺の部屋に、一人じゃ寝られないと来る明香が、一人で眠れるとは思えなかった。

明香の鎖骨にはっきりとついたキスマークのことが頭を過る。

(……どうかしてるな、俺は)



ーーーー「…………っ!」



一瞬、頭に何か突き刺さったのかと思うくらいの痛みに思わず、こめかみを抑えた。

(何だ?……普通の頭痛よりも酷い)
ドクドクと鼓動が早くなる。頭の中の血管が、音を立てて、鼓動と共に脈打つ感覚に、俺は壁に片手をついた。

「はっ……はっ……」
浅くなりそうな呼吸を抑えて、俺は深呼吸を、繰り返した。


「春樹?」

カツカツとピンヒールを鳴らすと、駆け寄って俺の顔を覗き込んだ。

「……あ、未央」

ふっと先程の痛みから解放される。

「大丈夫?」

未央が俺を覗き込んだまま、俺の手をとって脈を測る。

「あぁ、急に頭痛がしてね」

「……脈が少し早いわよ、今日は、あまり無理せず帰った方がいいわ」

「それは、秘書命令?」

「冗談が言えるならいいけど……看護師命令よ」

病院の院長の未央は看護師の免許を取得している。
「分かった、親父と話したら、なるべく早く帰るよ」

未央が小さくため息をついた。

「分かったわ。カフェインレスの温かいハーブティーを部屋に持っていっておくから」

「ありがとう」

未央の背中を見送ってから、社長室の前で、俺は一つ深呼吸してから、扉をノックした。
< 61 / 201 >

この作品をシェア

pagetop