告白の予防接種
 あっ、2人きりになれた。
 でも、勇気が出ない。

 私には好きな人がいる。
 彼は同じクラスのサッカー部。入学式のとき、見た目に一目惚れしたのもあるけど、ふとした瞬間に出る優しさが惚れポイント。プリントが間違えて返されたときに静かに手渡してくれて、シャー芯が詰まったのを直してくれて、休み時間のおやつをわけてくれて。もうそろそろ限界だった。
 もう彼は、クラスメイトなんかじゃない。私の恋人。

 いま私は教室の自分の席で帰りのバスを待っている。廊下から2列目、後ろから2番目。彼は教室の真ん中でジャージから制服に着替えている。もう、そんな姿見せられたらどこ見ていいかわかんないじゃん! 君は困らなくても、私は困るんです! 彼のお着替えが見えないように目をつぶる。

 着替えが済んだら、ケータイを見ている間に彼の近くに移動する。まずは音を立てないように椅子を浮かせながら立って、左に1歩。右脚を前に出して、左、右、左と。そうしたら彼との距離は机1個分くらい。
 よし。
 つばをのんで、こぶしをにぎって、一歩踏み出す。

 「ねえ。私、だいすきなんだ。付き合ってください。」

 ガラガラ!

 「お疲れ!」

 目を開けると、サッカー部の連中がガラガラと教室に集まり始めた。
 ああ、結局、言えなかった。

 これが、予防接種1回目だった。
 高1の5月の出来事だった。
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