あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 思わず『お友達って、男の人?』と問い掛けそうになって……そもそもデートか否かと探りを入れてしまったこと自体やり過ぎだったし、これ以上突っ込んで聞くのはパワハラやセクハラだと警戒されかねないとグッとこらえた。

 折角いつも羽理(うり)にべったりくっ付いて離れない法忍(ほうにん)仁子(じんこ)を、昼間一緒にランチへ行った際、「コレ、今日までなんだけどもしよかったら。あ、けど実は一枚しかないんだ。……荒木(あらき)さんには内緒にして?」とにっこり微笑んでそそのかして、ケーキバイキングの無料チケットを渡して引き離しに成功したと言うのに。

 まさか昼だけでなく、夕方にまで羽理からフラれるとは思ってもみなかった。

 今までの羽理ならば、長い期間かけて(つちか)ってきた春風のような《《仮面》》の効果で、警戒心なくついて来ていたというのに。

(何かおかしい……)

 ずっと羽理を……というより羽理だけを見てきた岳斗(がくと)には分かる。

 羽理の中で何かが変わり始めているのが。

(これは今までのやり方じゃ、マズイかも知れない)

 何せ荒木(あらき)羽理(うり)という女性は、少々のアプローチでは本意を汲んでくれない鈍い女性だから。

 そのお陰で他の男たちからの好意にも全く気付かなかったから、――裏工作はともかくとして――《《表向きは》》のほほんと構えていられたのだけれど。

 倍相(ばいしょう)岳斗(がくと)はほわんとした笑顔で羽理と話しながら、そろそろ本気を出すべきかも知れない、と思った。
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