あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 独特な浮遊感とともに箱が上昇を開始するや否や、
「何かさ、やけに親密な感じがしたけど……もしかして《《彼女》》さんとか?……だったのかなぁ?」
 本当に何の気なしといった調子で付け加えられた岳斗(がくと)からの言葉に、羽理(うり)は何故かギュッと胸の奥を握りつぶされたような痛みに襲われる。

(彼女って……。でもっ、大葉(たいよう)は私のこと好きだって言ってた……よ? 違うの?)

 そればかりか、そんな不満までふつふつと込み上げてきて、羽理は自分の感情なのにまるで他人のものみたいにわけが分からなくて困惑する。

 そうしてそんな自分の様子を、岳斗がどこか観察するような目で見詰めていることに羽理は全く気付けなかった。


***


 結局大葉(たいよう)はその後一時間半以上経っても、四階フロアの自室に戻って来なくて――。

屋久蓑(やくみの)部長、まだあの女性と一緒にいるの? すぐにでも私を部長室に呼び出すようなこと言ってたくせに?)

 羽理は何だかそのことが気になって仕方がなくて、午後からの仕事では有り得ないミスを連発した。

 データ入力をすれば、気を付けているつもりなのに何度も何度も入力欄がズレてしまう。
 ならば気持ちを切り替えようと振替伝票に手を付ければ、借方と貸方の金額が釣り合わないなどと言う、目を疑うような間違いを犯してしまう。
 そればかりか、自分の机の上だけならまだしも隣に座る仁子(じんこ)の机上の物まで不注意ではたき落としてしまい、仁子にまで迷惑をかける始末。

 そうこうしている時だった。
 机上に出したままにしていたスマートフォンに、裸男から『すまん、今日の呼び出しは中止にさせてくれ』とメッセージが入ったのは。

 いつもなら机の中。それも鞄の中へ忍ばせている携帯を目の付くところに置いていたこと自体いつもの羽理らしくない。
 公私混同は羽理が最も嫌うことだと言うのに。
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