あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
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 屋久蓑(やくみの)大葉(たいよう)は、帰宅するなりぴょんぴょんと飛び跳ねながら「お帰りなさい」をしてくれる愛犬キュウリに出迎えられて、デレデレで「ウリちゃんただいま」とその小さな頭を撫で繰り回す。

「ウリちゃん、パパが帰って来て喜んでくれるのは嬉しいけど……そんなに飛び跳ねたら駄目でちゅよ? 腰を痛めたら大変でちゅからね」

 《《いつも通り》》やたら丁寧な幼児語でキュウリに語り掛けた大葉(たいよう)は、〝うり〟という響きに気付いた途端、照れ臭さに心臓をバクバクさせた。

「ウリちゃん、もしもお(うち)に〝うり〟ちゃんがふたりになったらどうしまちゅか?」

 ボソリと独り言のように問いかけてみたら、キュウリにキョトンとした顔で見上げられてしまう。

「いや、今の忘れて?」

 はぁ~、と吐息をこぼしつつ……(風呂でも入ってシャキッとするか)と決意した大葉(たいよう)だ。

 いつもより設定温度低めのぬるま湯を浴びれば、このよく分からないモヤモヤした感情もリセット出来るかも知れない。

(いっそ水でも浴びるか!?)

 羽理(うり)には別れ際、ちゃんと明朝風呂へ入るよう指示を出して来たし、よもや裸でこんばんは♥なハプニングは起こらないだろうと思って。

 よくは分からないけれど、何となく……。
 荒木(あらき)羽理(うり)と同時に入浴しなければ、あの妙な通路は開かれないんじゃないかと勝手に思っている大葉(たいよう)だ。

 (荒木(あらき)の、あの綺麗な裸が見られないのはちょっぴり残念だな……なんて、これっぽっちも考えてないからな!?)と、車の中で羽理の香りを意識しただけで半勃(はんだ)ちになりかけた愚息を吐息交じりに見下ろして。
 
(何だってお前はあいつにはやたらと反応するんだ!)

 きっとスッピンの顔立ちが思いのほか好みのド・ストライクだった上に、やたらと(そそ)られるプロポーションだったから……以外に理由なんてありはしないのだけれど、今まであんな可愛い社員が同じフロアにいたのに気付けなかったのは痛恨のミスだと思ってしまう。
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