あのっ、とりあえず服着ませんか!?〜私と部長のはずかしいヒミツ〜
 どんなに足掻(あが)いてみても掴まれた腕が振りほどけないばかりか、もがけばもがくほど何故か羽理(うり)がギューッとしがみ付いてくる力が強くなる始末。

 オマケに気が付けば《《むき出しの》》太ももまで絡みついてくるから。

 大葉(たいよう)は息子に血が集中しないよう般若心経(はんにゃしんぎょう)を脳内再生する羽目になってしまった。


***


 結局ほぼ一睡もできないままに朝――。

 明け方になってやっと。羽理(うり)が「あー! それは私のお稲荷(いなり)さんです!」という謎の寝言とともに寝返りを打ってくれるまで、念仏を唱え続ける羽目になった大葉(たいよう)だ。

 ガチガチに固まったまま身動きの取れなかった身体は、あちこちがギシギシと痛んで。

 オマケに刺激され続けた息子もギンギンで疲労困憊(こんぱい)

 朝一でシャワーを浴びて、とりあえず《《色んな意味でスッキリ》》したのだけれど、寝不足だけは如何(いかん)ともし(がた)かった。

 風呂上り、リビングの壁掛け時計を見ると、まだ起きる時間までは数時間あった。けれど、そのままベッドに戻っても眠れる気がしなくて。

 ふとケージを見るとキュウリのつぶらな瞳と目が合って、『お父しゃん、どうかしまちたか?』と問い掛けられているような気持ちがした大葉(たいよう)は、「うりちゃん!」と彼女をケージから出して、まだ薄闇に沈んだ静かな町を可愛い〝彼女〟とふたりきりで散歩することにした。
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