フラグを全力で育てる系女子の恋愛事情〜なぜか溺愛されてますが〜
とっさに動いたその後でハッとする。

「ごっ、ごめんなさい三苫さん…っ」

勢いに任せて、三苫さんを突き飛ばしてしまった。

「…ううん。俺の方こそごめんね、いきなり」

三苫さんは、ふにゃりと目尻を下げる。その表情が悲しげに見えて、胸が締めつけられた。

「私、三苫さんがそんな風に思ってくれてたなんて、全然気づかなくて…っ」

ずっと親切なお兄さんだと思ってたから。

「小夏ちゃんは魅力的だよ。明るくて素直で裏表がなくて、食べてる時の顔も笑ってる顔も可愛いし」

「や、そ、そんな…っ」

これだけ直球に褒められたのは初めてで、顔が熱くなる。

「だからつい、焦っちゃった。ダメだね俺、余裕なくて」

三苫さんが、自嘲気味に笑う。

「私…好きな人がいるんです」

さっき三苫さんと距離が縮まった時、頭に浮かんだのは藤君のことだった。

華の言う通り、私はもうとっくに彼のことが好きなんだ。

「だから、ごめんなさい」

三苫さんは優しくて、頼りになって、いい人で。三苫さんの悪いところなんて、ひとつも思い浮かばない。

今だって心臓はドキドキを通り越して痛いくらいだし、三苫さんの目も見られないくらいに緊張してる。

だけど、それでも。

藤君に感じてる気持ちとは、やっぱり違う。





「そっか。じゃあ仕方ないね」

三苫さんはそう言って、私から少し距離を取る。

「出来ればこれからも、バイトは続けさせてもらえるとありがたいんだけど」

「そっ、それはもちろん!というか、三苫さんがいないとウチの店は回りません!」

「あはは、ありがとう」

三苫さんの対応は、最後まで大人だった。私もこのくらい相手を思いやる気持ちを持てたら、藤君のことだって傷つけずに済んだのかな。

「もし」

優しげな目元が、スッと細められる。

「小夏ちゃんが振られたら、また教えてくれるかな?その時は今度こそ頑張るから」

「え…えっ?」

「ははっ、冗談だよ」

笑ってる三苫さんの後ろに一瞬黒いオーラが見えたのは、きっと私の気のせいだと思うことにする。
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