NEVER~もう1度、会いたい~
サムライブル-の大切な予選最終戦を翌日に控えたこの日、翔平は本格的なリハビリの為に伊東にある城南大学病院分院に転院することになった。


この事実は、既に公表されており、出発に際しては、多くの報道陣が取材に訪れ、ファンも一目、翔平の姿を見ようと集まっていた。翔平の人気の高さが証明された形になっていた。彼らの前に車イスで現れた翔平は、フラッシュの放列を浴びながら、記者団からの質問に答え


「お陰様で、再手術後の経過は順調で、リハビリを本格化させるために、この度、転院することになりました。この先の道のりは、正直まだかなり険しいですが、光は見えています。1年先か2年先かわかりませんが、必ずまたピッチに立つことを改めてみなさんにお約束します。どうか、応援よろしくお願いします。また明日は大事な試合があります。一緒にサムライブル-の選手達に力一杯の声援を贈りましょう。」


とコメントし、迎えの車に乗り込んだ。


「足に負担は掛かってないか?そこそこのロングドライブになるが。」


心配した黒部が声を掛けると


「大丈夫です、お陰様で快適です。」


翔平はそう答えて笑う。


「じゃ、頑張れよな。あんたもさっき言ってたように、これからの道のりはまだまだ長い。焦っても、自分を可愛がり過ぎても、このリハビリは絶対に成功しない。向こうのスタッフにも、それはよく言ってある。いいな。」


「わかりました。」


「そのうち、巡視に行くけど、向こうのスタッフに我が儘言って、あんまり困らせないでよ。」


「俺がいつ、我が儘言って、スタッフさんを困らせた?」


恵に釘を刺されて、翔平は口を尖らせるが


「あんた、どの口でそのセリフ言えるの?」


と突っ込まれ、車内に笑いが起きる。


「じゃ、元気でな。」


「先生。」


「うん?」


「いろいろありがとうございました。」


「そのセリフはまだ早ぇよ。あんたがピッチに立った時に、心の中で俺に向かって叫んでくれ。」


「わかりました。」


そして2人は笑顔を交わし合った。


「では、お願いします。」


恵がドライバ-に声を掛けて、車が走り出す。見送りの人々に笑顔で手を振っていた翔平だったが、車が病院をあとにすると、その表情は一転して厳しいものになる。


(未来・・・。)


あの後、とうとう自分の前に姿を現さなかった未来の顔が浮かぶ。


(これでよかったのか?翔平。)


自問しても答えは出ず、やがて翔平は、静かに瞼を閉じた。
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