NEVER~もう1度、会いたい~
その人物が到着ロビーに姿を現すと、マスコミのフラッシュが一斉に光り出し、待ち構えていた人々からは歓声が上がる。


そんな状況にも、全く動じることもなく、手を挙げて応えた彼は、そのまま歩き出す。


「お帰りなさい。」


「ケガの具合はいかかですか?」


追い掛けて来た報道陣から、矢継ぎ早に質問が飛ぶが


「このあと、記者会見を行いますので、この場でのご質問はお控え下さい。」


彼の周囲にいるスタッフが制止する。そのまま、いったん人々の前から姿を消した彼が、諸手続きを終え、会見場に姿を見せると再びまばゆいばかりのフラッシュが彼に浴びせられ、何台ものTVカメラが、彼の姿を追う。そんな中、設けられた会見席に腰を下ろした彼は、司会者の言葉を待たずに


「日本全国のサッカ-ファンのみなさま、大変ご心配をお掛けしましたが、高城翔平(たかじょうしょうへい)、ただいま帰国いたしました。」


と言うと、ゆっくりと頭を下げた。その姿をカメラに収めようと、またフラッシュが焚かれる。


「それでは、会見を始めさせていただきます。」


司会者の言葉が厳かに会場に響いた。


高城翔平、現在はドイツでプレ-をするプロサッカ-選手で、自他とも認める日本代表チ-ムのエースストライカ-である。エースストライカ-とは、チ-ム内でもっとも得点を決める能力が高い選手、つまりチ-ムの中心であり顔である。


そんな彼の存在は、当然3日後に迫ったワールドカップアジア予選最終戦には、必要不可欠であることは言うまでもない。ところが、彼は4ヶ月前に所属するクラブチ-ムでの試合で右足を負傷し、一時は最終戦出場が絶望視される状況だった。しかし懸命な治療とリハビリの結果、ギリギリ出場が叶うこととなり、本日の帰国となったのである。


マスコミからの質問は、当然現在の翔平の足のコンディション、更には試合直前での帰国に伴う体調への懸念に集中したが


「足は問題ないからこそ、今この場におります。大事な試合を前にした代表チ-ムにお飾りは必要ありませんから。またその他の身体のコンディションももちろん万全です。この程度の移動で、コンディションを崩してるようじゃ、プロのサッカ-選手とは言えませんよ。」


翔平は笑顔で答えて、自信を示した。
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