精霊魔法が使えない無能だと婚約破棄されたので、義妹の奴隷になるより追放を選びました

第13話 な、なんで気づかれてるの⁉︎

 村の散策を終えた私は、迷うことなく無事宿屋に戻ってきた。

 久しぶりに、テーブルについて食べた晩御飯はとても美味しかった。野犬被害もあってかお肉はなかったけれど、この村で取れた野菜がふんだんに使われた温かいスープとパンで十分ご馳走だった。

 満腹になると、お腹一杯ご飯が食べられることが、幸せには必要なんだと、しみじみ感じる。
 アランには、大げさだって笑われてしまったけれど。

 夕食後、私とマリア、アランとルドルフに分かれて、別々の部屋で休むことになった。

 身体を濡らした布で拭いていると、マリアがどこかニヤニヤしながら口を開いた。

「ねえねえ、エヴァちゃんって……アランのこと好きでしょ?」
「ふえっ⁉︎」

 動揺しすぎて、手に持ってきた布が、ポソリとベッドの上に落ちてしまう。

 な、なんで気づかれてるの⁉︎
 誰にも気づかれていないって、思っていたのに!

 ここで平常心を保ちながら、違うと言えたら良かったけど、そんなメンタルの強さが私にあるわけなく、なんて言い訳しようかと、目を瞬くしかできない。
 そんな私の慌てっぷりを見て、マリアが大きく噴き出した。口元に手を当てながら、肩を震わせて笑っている。

「そ、そんなに笑わなくてもいいでしょう、マリア!」
「あははっ、ごめんなさい、エヴァちゃん。それにしても、わかりやすい反応ね?」
「わ、わかりやすい……かな?」

 ってことは、アランにもバレてるってこと?
 思い浮かんだ恐ろしい想像に、身体からスーッと血の気が引いた。慌ててマリアが、両手を振って否定する。

「だ、大丈夫よ、エヴァちゃん! アランは気づいていないわ! ええ、絶対に気づいていないから、安心して? わ、私は、人間観察が大好きだから、何となく分かっちゃうの!」
「そ、そうなんだ」

 マリアが特別、観察眼が鋭いってことね? よかったぁ。
 ホッとしたのも束の間、マリアが意地悪く口角を上げた。

「だけど、そんな感じじゃ、一生アランにエヴァちゃんの気持ち、伝わらないわよ? もっと、積極的にならないと!」
「積極的にって言われても……私がアランのことを好きって知られたら、きっと迷惑だわ……」

 アランが私を同じ気持ちだったら、幸せすぎて卒倒しそうになる。
 だけど、人生そう上手くいくわけじゃない。

 今までの主従関係もあるし、彼が私に優しくしてくれるのは、きっとその名残もある。彼の優しさに勘違いして告白なんてして、

「俺……そういうつもりじゃなかったんだけど……」

と困惑気味に断られた日には、きっと私は一生立ち直れない。

 リズリー殿下に婚約破棄された以上に、立ち直れない。

 ううっと頭を抱える私を見て、マリアは特大のため息をつきながら、

「こっちも、とんでもなく重症ね……」

と、よく分からないことを呟いたけど、今はどうでもいい。
 ベッドに落ちた布を握りしめながら、私は懇願した。

「おっ、お願い……アランにはこのことは……」
「うんうん、分かってるわ。絶対に言わないから!」
「……ほんとう?」
「ほんとほんと! お姉さん、口固いからねー。エヴァちゃんの恋路、陰ながら応援してるわ。アランとエヴァちゃん、絶対お似合いだと思うし!」

 お似合いなんて言われて、お世辞だと分かっててもだらしなく口元が緩んでしまう。
 脳内に、結婚式で奏でられるファンファーレが鳴り響いた。

「え? そ、そうかなぁ、えへへ、やっぱり一人目の子どもは、女の子の方がいいわよね?」
「そ、そこまで言ってないけど、あーっ……エヴァちゃんの中では、意外にもそこまで進展してるんだぁー……」

 ハハッと、マリアが乾いた笑いをあげながら、少し引いた目で私を見ているのは気のせいかしら?
< 13 / 156 >

この作品をシェア

pagetop