旅先恋愛~一夜の秘め事~
最寄り駅に到着してすぐ、力の入らない足でドラッグストアに向かった。

人目を気にしつつ妊娠検査薬を素早く購入し、マンションへと急いだ。

自宅に足を踏み入れ、その場にうずくまった。

速い心音がやけに大きく耳に響く。

ゆっくりと深い呼吸を繰り返すが、心は一向に落ち着かない。


大丈夫、確認するだけよ。


痛くも怖くもないわ。


落ち着いて、まずは立ち上がらなきゃ。


何度も言い聞かせて、心を奮い立たせる。

自分の体なのに、うまく動かせない。

足を踏ん張り立ち上がった瞬間、軽い目眩がして慌てて壁に手をついた。


しっかりしなくちゃ。


わかっているのに、緊張のためか足が竦む。

胸に検査薬を抱きしめ、トイレのドアをじっと眺める。

しばらくして小さく息を吐き、覚悟を決めてトイレのドアを開けた。


「……陽性」


出てきた結果をつぶやいた声は、自分のものとは思えないほど掠れていた。


「暁さんの、赤ちゃん……」


検査薬を使う前はあれほど緊張していたのに、いざ結果を目にした今はやけに落ち着いていた。

どうしよう、と狼狽える気持ちはもちろんあるし、混乱もしている。

けれど私の選択肢はひとつしかない。

そっと腹部に片手で触れる。

まだなんの変化もない自分のお腹がとても愛しく思えた。


妊娠を彼が知ったらどう思うだろうか? 


驚く? 


……困る?
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