冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「そんなものがかけられてたんだ」

 オルテンスを縛っている魔力を使った誓約。それは魔法使いを驚かせるには十分なものだったらしい。


「……クシヤ卿、オルテンス様にかけられている魔力による縛りはそんなにひどいものなのですか?」
「酷いなんてものじゃない。自死をさせないように縛ることに関してはともかくとして、わざわざ外傷を残さないようにする代わりに痛みを増幅するような仕組みになっている。それに加えて心臓を縛っている禍々しい魔力……。殺そうと思えば、すぐに殺されてもおかしくないレベルだ」



 その言葉を聞いたミオラたちはその形相を恐ろしい程に変化させる。サーフェーズ王国がそんなものをオルテンスにしている事実に怒りでいっぱいだったのだろう。
 だけど当の本人は、いつも通りの様子である。


「そんなものがかけられてたんだ」


 平然とただその言葉だけを告げる。
 オルテンスはやっぱり自分のことを大切にはしていない。周りから大切にされることを信じていなくて、自分のことも大切には思えない。だからこそいつも通りの様子である。


「なんでそんな平然としているんだ? お前のことだぞ。分かっているのか? このままだと殺されたりするかもしれないんだぞ?」
「別に」


 クシヤ卿とミオラに呼ばれた魔法使いは、この国の公爵家の出である。ただし魔法の研究をすることに熱心で王城に顔を出すことも中々ない。そういう魔法使いが驚くだけのものがオルテンスにはかけられている。


 それはおぞましく、気持ちが悪い魔力の使い方だ。
 クシヤは正直、こんな魔力の使い方を仮にも王族の血を継いでいるものにするなんて何を考えているのだろうかとそう思ってならなかった。
 とても複雑で、まるでその魔力による縛りでオルテンスが死んだとしても問題がないとでもいう風な歪な魔力の縛り。――そのオルテンスに絡みついている魔力は、オルテンスに対する魔法使いの実験がうかがえる。


 ……そういう過去などないように見える、無邪気な様子のオルテンス。だけれどもそれだけの痛みを伴うことをされ続け、恐らくサーフェーズ王国の魔法使いたちの実験体にされ続けていたのだろう。
 そのことを思うとクシヤは目の前のオルテンスが不憫に思えた。

 自分がそういう風になくなったとしても問題がないとでもいうような様子のオルテンス。そういう生き方しかオルテンスは出来なかったのだろう。




「それでクシヤ卿、オルテンス様のそれは解けるんですか?」
「すぐは無理だ」
「貴方でもですか?? オルテンス様がそんなものに縛られているなんて嫌です。早く解いていただきたい」



 その必死なミオラの様子に、クシヤはすっかりメスタトワ王国の者たちからオルテンスが好かれている事実に驚く。最も好かれていなければわざわざ魔力による縛りを解くためにクシヤがこちらに呼ばれることもなかっただろう。

 オルテンスがオルテンスでなければ、オルテンスが殺してくださいと初対面で言わなければ……恐らくオルテンスは此処まで周りに関心を持たれなかっただろう。本人に自覚はないが、すっかりオルテンスは王城の人たちの心をつかんでいる。




「善処はしよう。しかし複雑が故に、きちんと解かなければオルテンス様が死ぬぞ」
「それは駄目です!!」
「そんなに必死になるな。当然、死なないように解く。ただ、それまでの間にこれを施した奴が何かしたら死ぬ可能性もある。オルテンス様は今だって十分、いつ死んでもおかしくない状況だ。だから、これを渡しておく」
「これは?」



 ミオラがクシヤから瓶に入った液体を受け取る。一つだけではなく複数である。



「魔力の循環を正常に戻すものだ。オルテンス様に施されているものは、オルテンス様の身体の負担などを一切考えていないものだ。そして施されている期間が長いほどオルテンス様の身体を蝕んでいく。それを調和するためのものだ。本当につらそうだった時に呑ませるといい。ただ、のませすぎると身体へと負担だ」



 クシヤから説明を受けたミオラは、真剣な雰囲気で頷く。
 そしてそんな真剣な会話がされているすぐ横で、自分のことなのにオルテンスは椅子に腰かけたままぼーっとしているのである。
 ……彼女の自分への関心は、本当に薄い。
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