冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「痛い時に、手を握ってもらえるのって嬉しいんだね」

 そういうわけでオルテンスの魔法による誓約を解くことになった。



 ただその禍々しい魔力はオルテンスの心臓にまで巻き付いており、解くためにどれだけの時間がかかるか分からないらしい。
 ……オルテンスのそれを解くために、クシヤは不眠不休で動く必要もあるかもしれないのだと。その話を聞いたオルテンスは、「そこまでしてもらうのも……。私なんかに」と遠慮しそうになっていたが、「いいから黙って解かせろ」と言われて頷くのだった。
 ちなみにその魔法による誓約を解く場には、何だかんだオルテンスのことを気に入っていて心配しているデュドナの姿もあった。デュドナやミオラたちはクシヤに向かってちゃんとできるんだろうな? といった目を向けている。



 クシヤはその態度に、オルテンスは過去の花嫁候補たちと違ってデュドナたちにも大切にされているんだなと実感するのだった。


 魔法を解除するために、オルテンスは王城の空き部屋の一室を借りている。
 その中央に置かれているベッドに横になったオルテンス。
 そのベッドを囲むように、魔法陣が描かれている。
 それを使用して、オルテンスの魔法の解除が行われるらしい。オルテンスは大がかりなことに驚いたものである。



 そしてクシヤが何かを唱えたかと思えば、魔法陣が光る。



 その幻想的な光景に、オルテンスは驚いた様子を見せる。
 こういう光景を見たのが初めてだったオルテンスは、少しだけ興奮した様子を見せている。
 でもその興奮の気持ちはすぐになくなる。
 というのもオルテンスの身体に激痛が走ったからである。


 なにかが身体から無理やりはがされようとしているような――そんな不愉快な感覚。それがオルテンスの身体に痛みと共に走り、オルテンスは痛みに顔をゆがめる。



 痛みの悲鳴をあげないのは、祖国で声をあげてもっと痛くされたことがあるからである。そのためオルテンスは痛みに対する耐性が強い。それでも痛いのが嫌だから殺されないと言っていたわけだが……。


 激痛の走ったオルテンスにすかさずミオラが薬を飲ませる。以前クシヤからもらった魔力の循環を安定させる薬である。それで少し痛みは止んだものの、やはりオルテンスの身体の奥底にまで絡みついている禍々しい魔力を簡単にはがすことは出来ないらしい。
 痛みに顔をゆがめるオルテンスを見て、デュドナとミオラたちも心配そうな顔をしている。
 この痛みというのは、どのタイミングが痛みが走るかというのも分からないらしい。少し痛みが和らいだ時が続いたと思えば、激痛が走ったりと、オルテンスも中々眠りにもつけなかった。



 そしてオルテンスが痛みに震えていると、デュドナやミオラたち――オルテンスがこの王城で関わった人たちが手を握ってくれたりする。中には普段表に出てこない王家の影までオルテンスを心配そうに見つめて手を握ってくれていた。




「痛い時に、手を握ってもらえるのって嬉しいんだね」


 オルテンスは思わずという風にそんな言葉を告げた。



 今までオルテンスが与えられていた痛みは、ただ痛いだけだった。オルテンスを心配してくれる人もいなくて、こういう痛い時に手を握ってくれる人だっていなかった。
 だから、こうして手を握ってもらえて嬉しくて仕方がなかった。


 そうやって笑うオルテンスの魔法を解除するのは、有に三日を要した。その際にクシヤもオルテンスも一睡もしなかった。
 流石にデュドナやミオラたちは仕事もあるため、常にそこにいるわけではなかった。
 しかしその場所には必ず誰かが控えてくれていた。そして常に誰かがオルテンスの手を握ってくれていた。
 だからこそ、痛みを感じても……こんな風に辛い三日間でも、それでもオルテンスは穏やかな気持ちになっていた。



「オルテンス様、私たちが傍にいますからね」
「……お前、辛そうだな。無理をするな」


 そうやって声もかけてくれている。
 そうしてその三日間が終えた後、クシヤもオルテンスもそのまま倒れ込むように眠りにつくのだった。







 眠りにつくオルテンスを見て、デュドナやミオラたちはほっとした様子を見せている。クシヤがオルテンスの命に危険がないように……と解除をしてくれたものの、本当に命を落とさずに解除が出来るのかというのは定かではなかった。
 痛みがなくなり、穏やかな顔をして眠りに付くオルテンス。その姿を見ながら彼らは本当に良かったとそう感じているのだ。




「陛下、オルテンス様にかけられているものが解除出来て良かったですね!」
「そうだな。ただ……オルテンスが自殺しないように気をつけろよ」
「わかっております。オルテンス様のことは私がちゃんと目を光らせておきますから」



 そしてミオラはデュドナの言葉にそう答えるのだった。

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