冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「いいんですか? 陛下」

「陛下、オルテンス様を王妃様にしません?」
「まだ、言っているのか」
「もちろんです。オルテンス様ってすごくかわいいですし、今まで勉強を出来る環境がなかっただけで凄く優秀ですし。そもそも我が国って今まで王妃が居なくても十分に回っているので、べつに王妃に王妃として忙しく動き回れって言っているわけでもないですよね?」



 ミオラはデュドナ相手に如何にオルテンスを王妃にしたほうがいいかというのを語っていた。
 他の文官たちもミオラを止める気はなさそうなので、デュドナの妻にオルテンスがおさまるといいなと思っているのだろう。



「陛下は別にオルテンス様のことが嫌いじゃないですよね? 寧ろ気に入ってますよね? 考えてみてくださいよ。あんなに可愛いオルテンス様が奥さんになるんですよ! きっと幸せになれますよ。それに自己評価の低いオルテンス様を思いっきり幸せにしたくないですか? 私は凄くオルテンス様のことを幸せにしたいです。オルテンス様を幸せにするために、私は是非とも陛下にオルテンス様を託したいです」


 ミオラはそんなことを言いながら、また続ける。



「陛下だって、オルテンス様が他の誰かの物になるのはちょっと嫌だとか。自分の隣で笑っていたら楽しいだろうなとかそういう気持ちはないんですか?」




 ミオラにそんなことを言われて、デュドナは思考する。自分がどう思っているかを。



 自己評価が低く、自分を大切にしないオルテンス。最近は徐々に自身を大切にすることを覚えているようだが、それでもまだまだ過去の暮らしからトラウマのようなものを感じている。
 そんなオルテンスがのびのびと、この国で過ごすのが楽しいと夢みたいだといいながら笑う姿を見ているとデュドナだって心穏やかな気持ちになる。
 オルテンスが傍に居たら楽しいだろうなという気持ちや、目の届かない所に行かれるのが少なからず複雑な気持ちになる。



「……そういう気持ちは少なからずあるが」
「なら、オルテンス様を妻にしてしまいましょう。私も王妃になったオルテンス様に仕えたいですから」


 はっきりとミオラはそんな気持ちを言い切る。


 デュドナはそれが本音かと呆れながらも、ミオラの言葉に考えるような仕草をする。
 ひとたび目を離せば、オルテンスは自分でその命を摘まんでしまうかもしれない。それに花嫁候補という立場でなければ、オルテンスと今のように親しく話すことも出来ないだろう。



「……オルテンスが、頷いたらな」



 デュドナが結局折れてそう言えば、ミオラたちは嬉しそうに笑った。



 そもそもデュドナは本心から思っていなければ王妃を決めるなんてことをしない人間なので、ミオラたちからしてみればその言葉で十分オルテンスのことをデュドナが特別に思っていることが分かるのだ。




 そしてそれから数日後、王城の庭園でお昼寝をしているオルテンスの元へデュドナはやってきていた。







「オルテンス」
「あ、陛下。こんにちは」




 デュドナがオルテンスへと声をかければ、オルテンスは嬉しそうに小さく笑って挨拶をする。
 すっかりオルテンスはデュドナを見ると安心するような表情を浮かべるようになっていた。





「そうだ、陛下!」

 デュドナが何か言い出す前に、オルテンスが口を開く。オルテンスは隣に腰かけたデュドナを見てにこにこと笑っている。



「なんだ?」
「ミオラに私がこの国にどういう形で居たいかって聞かれました」
「ああ」
「今までそんなことを考えた事はなかったから、どんな風な形で居たいかって考えるの結構難しくて……。でも一個だけ思ったのが、私は陛下とお話出来る距離だと嬉しいなってそう思ってるんですけど。そうなると……私、どういう形で此処に居たらいいですか?」



 オルテンスは自分の気持ちを、素直にそんな風に伝えていく。


 この国の優しい世界がオルテンスは好きである。皆優しくしてくれていて、そういう国にどういう形で居た方がいいだろうかとオルテンスは分からない。
 なんにしても、この後この国にいるためにはこの国の一番上の存在であデュドナの意見を聞かないわけにはいかない。



 その丸々とした黒い瞳が真っ直ぐにデュドナのことを見つめる。
 デュドナは無垢な瞳を見ながら、デュドナは思わず笑ってしまった。



「オルテンス、お前がよければ俺の妻として此処にいるか?」
「え?」


 オルテンスは突然言われた言葉に、目をぱちぱちとさせる。


 ちなみにそれを見守っている人達は「いけっ、陛下」と目で全力で応援している。中には、このまま陛下が振られたらどうしようかなどとそんなことも考えているようだ。



「……私が、陛下の奥さんに?」
「ああ」
「いいんですか? 陛下」


 オルテンスは言われた言葉が信じられないと言った様子である。その黒い瞳を何度も瞬いて、信じられないと言う様子でデュドナの事を見ている。



「ああ。俺はオルテンスが妻になれば楽しいだろうなと思った」
「……私も、陛下の奥さんになるの、嫌じゃない。でも……私、王妃なんて出来るか分からない」


 嫌じゃないと思っている。
 元々デュドナとお喋りが出来る位置に居たいとオルテンスは思っていたのだ。



 なので、そのことに対して前向きな気持ちはある。だけれど、虐げられてきたオルテンスはそれまで王妃になるための教育などされてこなかった。元々自己評価が低いオルテンスなので、自分にそんなことが出来るのかと思っているようだ。




「問題ない。そもそも能力があるから王妃にしたいんじゃなくて、お前がお前だから王妃にしてみようと思ったんだ。第一仕事を出来なくても俺がオルテンスを選んだんだから、周りに文句は言わせない」
「……何も、出来なかったとしても?」
「ああ。だから、妻になるか?」
「うん、なる」


 そして、オルテンスはデュドナの言葉に嬉しそうにはにかみながら頷くのであった。

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