冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「お友達が出来るのって嬉しい」

「ようこそおこしくださいました」



 オルテンスは緊張した面立ちのまま、お茶会にやってきた夫人や令嬢たちへと声をかける。


 今日のオルテンスは、ミオラたちの手によってそれはもう美しく着飾られている。
 その灰色の髪は金細工の髪止めで止められ、耳にはルビーのイヤリング。ドレスは美しい絹の淡い青色。所々に宝石がちりばめられている。
 そのオルテンスの身なりを見れば一目で、デュドナがオルテンスを気に入っていることが分かるだろう。



 それもあって参加者たちは少しだけ緊張していた。


 というのもデュドナは冷酷王などと呼ばれている存在である。オルテンスはデュドナに怒りをぶつけられたことがないが、怒ったデュドナは中々容赦がない。


 その容赦のなさを理解しているからこそ、そのお茶会にきているものたちはオルテンスの気分を害することをしないようにしようと思っている様子である。
 王妃になるオルテンスを怒らせるということは、デュドナのことまで怒らせることに繋がってしまうのだから。


 そういうわけでそのお茶会の中で、招待された者たちは終始にこやかにオルテンスと対峙していた。


 オルテンスはそんな彼女たちを見て、皆優しいななどと思っていた。最も、表面上は優しくしていても実は……という人がいるのをオルテンスは知っている。それでも優しくしてくれることはとても嬉しいことだとオルテンスは思っている。
 ちなみにお茶会が初めてのオルテンスであったが、案外お茶会は問題なく行われていた。


 お茶会をつつがなく終わらせるためにとオルテンスはこの国の流行などについても学んでいた。こういう社交の場では、最近流行りの物の話なども重要なものである。
 オルテンスは元々学ぶことが好きなのと、素直な性質なので、これを覚えていたほうがいいと言われたものはすぐに覚えてしまった。


 ただいきなり王妃になることが決まったオルテンスはまだまだ学ばなければならないことも沢山ある。全ての情報を網羅するなどと言う真似は、あくまで平凡なオルテンスには可能なことではない。
 というわけでオルテンスが知らない話題を振られることもあった。だけど、そういうのも特に問題はなかった。



 なんせ、このお茶会に呼ばれているのはオルテンスの敵ではない。


 オルテンスの機嫌を損ねることをよしとしないものたちである。オルテンスが素直に「知らなかった」と口にして、教えてくれてありがとうと微笑めばそれで終わりである。
 そう言う態度は、夫であるデュドナが侮られる要因になるかもしれないが……、デュドナは特にオルテンスはそう言う調子で問題がないと思っている。このメスタトワ王国は王妃がそういう性格だったからといってつぶれるような国ではない。



 強国であるということは、そういうことである。
 その場に招待された夫人や令嬢たちだって、デュドナの決定に反旗を翻す気もなかった。それに加えてオルテンスを見て、好感を覚えるものも少なくはなかった。



 愛らしく微笑む、冷酷王の認めた王妃。
 それだけでもオルテンスには価値がある。それにオルテンスは人に嫌われるような性格をしているわけでもなく、デュドナに王妃に選ばれたことを驕ることもない。
 そういうところが素敵だと思ったのだろう。
 特にオルテンスは同じ年の令嬢の一人と仲良くなっていた。王妃になるオルテンスに話しかけられることにその令嬢は緊張した面立ちだったが、オルテンスの笑みを見て徐々に慣れてきたようである。



 そしてオルテンスはそのお茶会に参加したものたちと仲を深めた。
 個人的に手紙を交わすものも出来、それから何度もお茶会が開催されることになった。




「陛下、お手紙が来ました」
「そうか。仲良く出来たようで良かった」
「お友達出来るのって嬉しい。陛下、お茶会の機会を私に与えてくれてありがとうございます」
「お礼はいらない。俺がやりたいからやっていることだからな」
「でも嬉しいので、お礼をいいます!」
「そうか。でもお茶会で彼女たちと仲良くなれたのは、オルテンスが頑張ったからだぞ。お前が向こうにとって仲よくするに値しない人間だったらこうやって仲良くも出来なかっただろう」
「私が陛下の奥さんになるからってのもあると思います」
「それはあるが、それでもオルテンス自身を見て、仲良くなろうとしたはずだ」



 確かに王妃になる存在と仲よくしようという打算的な気持ちはあるだろうが、それでもその王妃になる存在自身が嫌な人間だったらこんなにも手紙を交わしたり、お茶会に参加したりしないだろう。
 本当に嫌ならば、仮病を装ったりして欠席したりもするものだ。それに手紙だってオルテンス自身を気遣うものが多く、本当にオルテンスと仲よくしようとしているのだと分かるものばかりなのだ。


「へへ、そっか。私、嬉しいです。お友達なんていたことなかったから。お友達が出来るって楽しいです」


 オルテンスはそう言って、はにかむように嬉しそうに笑うのだった。

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