冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「起きた時に陛下の顔を見れるの幸せです」

「陛下、オルテンス様の祖国から手紙が届いてます」
「……はぁ、招待状も送っていないのに煩いことだ」
「本当ですね」


 さて、デュドナは一通の手紙を見ながら嫌そうな顔をしていた。その手紙はオルテンスの祖国であるサーフェーズ王国からの手紙である。


 というのもデュドナはオルテンスを王妃にすることを決めてから、結婚式への招待状を各国へと送っていた。しかし、その招待をオルテンスの祖国であるサーフェーズ王国へは送らなかった。
 本来なら真っ先に送るべき花嫁の祖国に招待状さえも送らない……というのはその国との断交を示していると言えるだろう。
 実際にデュドナも、メスタトワ王国の者たちもオルテンスに酷い扱いをしてきたサーフェーズ王国の王家に対して良い感情は抱いていない。オルテンスにとっては血が繋がっているだけの恐ろしい人達だ。


 オルテンスの人生で一番幸せな日になる予定の結婚式の場で、オルテンスを虐げていた人たちを招待するはずもなく招待状は送っていなかった。
 しかし噂というのは出回るのが早いもので、オルテンスが王妃になることが広まり、サーフェーズ王国の王からは出席を申し出る手紙が来ていた。



 自分はオルテンスの父親だ。その娘の結婚式に出ないわけにはいかない。そして今後ともメスタトワ王国とは良い関係を築きたいといったもの。そして是非援助をしてほしいなどと厚かましい言葉も書かれている。
 サーフェーズ王国の王はあれだけの扱いをオルテンスにしてきたにもかかわらず、父親としての権利を主張しようとしている。



「しかも影からの話だと、オルテンス様の妹姫って酷いらしいですよ」


 側仕えはそんなことを言って続ける。



「心優しい姫だとか言われてますが、実情は違います。オルテンス様のことをアレ呼ばわりしていて、その顔を醜悪にゆがめて、『アレが大国の王妃ですって』って癇癪を起こしていたみたいです」




 オルテンスの妹にとって、オルテンスはどうなってもどうでもいい存在だった。自分が冷酷王と呼ばれるデュドナの花嫁候補として他国に滞在するのが嫌だとオルテンスをよこしたくせに、オルテンスがいざ大国の王妃になるのは許せないらしい。
 中々我儘なことを言っている。
 妹姫にとってオルテンスはあくまでも下の存在で、その下の存在が自分より上の立場に行くことが許せないのかもしれない。



「アレ呼ばわりか」
「はい。それに……招待状が来なくても押し掛けようと思っているみたいです」
「正気か?」
「オルテンス様を王妃に向かえる陛下を侮っているのかもしれませんね。あとはオルテンス様相手ならば言うことを聞かせられると思っているみたいですよ。オルテンス様にあの魔力の縛りをかけた魔法使いも連れて来て、オルテンス様を痛めつけていいように利用しようと最終的に考えたみたいです。オルテンス様がこの国の王妃として使える存在になるのならば、思いっきりサーフェーズ王国のために利用すればいい……そう証言していたのを影が聞いています」


 そう言いながら側仕えも嫌そうな顔をしている。


 サーフェーズ王国の妹姫は、自分がオルテンスの妹だからと招待状もないのに押し掛けてくるつもりらしい。それでいてオルテンスを痛めつけて、自分の国に有利なように利用しようとしている。




「そのオルテンス様の妹は見た目はかわいらしい方なので、オルテンス様を王妃にするような陛下相手なら、自分が行けば問題ないだろうと思っているようです。オルテンス様が陛下に気に入られたのならば、自分が行けばサーフェーズ王国にとって良い条件を掴めるだろうって、凄い自信ですね。今までオルテンス様を虐げて来ても咎められることなくきたからこそ、問題ないと思っているのかもしれません。どうしますか?」





 あくまでもオルテンスのことを利用しようという思考である。オルテンス自身の結婚を祝うつもりはそこにはなく、オルテンスのことを気遣う言葉さえも一言もない。
 ――そういう態度で、オルテンスを王妃として迎える国が喜んで受け入れると思っているあたり中々妹姫はお花畑な思考をしていた。
 他国に出たこともあまりなく、サーフェーズ王国という限られた世界でぬくぬくと育ったためと言えるかもしれない。




「一旦放置して逆に来させる。その女が無礼な真似をすればするほど、こちらから手出しが出来るからな。もちろん、オルテンスには会わせない。国境を勝手に越えようとした。それだけでも処罰には十分だろう?」
「ははっ、そうですねー。でも一応オルテンス様には言っておいた方がいいのでは? 勝手に処罰だと後から何か思うかもしれませんよ」
「そうだな。話だけはしておく」
「それがいいですよ。夫婦だろうと、会話をしなければ通じ合わないことはありますから。話し合うというのはとても重要です」



 側仕えにそう言われて、デュドナは頷くのであった。










 そしてデュドナはオルテンスの元へと向かうことにした。


 オルテンスは今、お昼寝をしているらしい。王妃になることが決まったわけだが、それでもこうして王城でお昼寝をするというオルテンスを咎めるものは居ない。
 寧ろオルテンスが王妃になることが決まって、影たちはより一層業務に励んでいる。


 ……すっかりオルテンスのファンになっている彼らは、オルテンスを危険から見守ると言う職務をそれはもう楽しんでいる様子である。デュドナはこいつら大丈夫か? と思いつつ、王家に忠誠を誓っているのは分かるので放置している。
 すやすや眠っているオルテンスを見つけると、デュドナは隣に腰かける。そしてオルテンスの灰色の髪を優しく撫でた。
 そうしていれば、オルテンスの瞳がぱちりと開く。
 寝ぼけた様子のオルテンスはデュドナを見る。




「んー。陛下?」
「おはよう、オルテンス」
「ん、おはようございます」



 寝ぼけたままオルテンスは起き上がり、デュドナをじっと見る。



「どうした?」
「起きた時に陛下の顔を見れるの幸せです」




 オルテンスはそんなことを口にして嬉しそうに笑った。
 その姿が可愛かったからか、デュドナが口づけを落とす。そうすればオルテンスは花が咲くような明るい笑みを浮かべるのであった。
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