冷酷王の元へ妹の代わりにやってきたけど、「一思いに殺してください」と告げたら幸せになった

「私は自分で死ぬことが出来ないから」

「……というわけで、オルテンス様は中々悲惨な暮らしをしていたようです」


 デュドナはその日、オルテンスの今までの暮らしぶりについての報告をうけていた。オルテンスが侍女の腹から産まれた存在であること。そして閉じ込められるように、隠れながら暮らしていたらしいこと。
 ――メスタトワ王国の間者の調べた情報は、それは全てではないだろう。でも少し調べただけでもそう言った悲惨な情報が耳に入ってきたのだ。


「そうか」
「……オルテンス様が、陛下に殺してほしいと言っているのも戻りたくないからかもしれないですね」
「……国に戻りたくないということか」
「はい。送り返されたくないと言う思いから、殺してほしいと言っているのではないかと」


 それはオルテンスが祖国に帰れば、死ぬよりも酷いことが起きると思っているということに他ならない。
 冷酷なる王に殺されることを望み、それ以上に酷い目に遭うなどと普通の王女ならばありえないはずである。それでもそういう扱いを受けていたというのならば、この場所での暮らしが夢のようだと言うのも仕方がないのかもしれない。



「陛下、オルテンス様がひどい目に遭うのはちょっと嫌なので、花嫁にしないにしてもこの国に住んでもらえばいいんじゃないですか?」
「何で揃いも揃って我が国の暗部は、オルテンスに絆されているんだ……」



 警戒心がないわけではないだろう。それでもオルテンスの様子を見ていると警戒するのが馬鹿らしいと、そういう気持ちになるようだ。
 デュドナは呆れた様子を見せている。
 ただデュドナも冷酷王と呼ばれていたとしても、人に対する情がないわけでもない。客観的に見て、オルテンスが死ぬというのは目覚めが悪い話である。



「……我が国の国民にするのは別に問題はない」
「陛下、そのまま花嫁にしてしまえばどうですか?」
「お前ら、絆されすぎだろ」
「だって別に今まで陛下には正式な妃は居なかったですし、オルテンス様が妃になっても問題ないじゃないですか。陛下と合わないタイプの、陛下のことを煩わせて国益を損なう存在だと困りますけど、オルテンス様は癒し系のマスコットですから、いるだけでいいと思いますし。オルテンス様は教育をきちんとはされていませんけど、その辺はどうにでもなりますし」



 ……デュドナはそんな発言をされて何ともいえない表情をする。

 デュドナとしてみても、今にも死にそうな様子の情緒不安定なデュドナを見ていると放ってはおけないとは思っているが、現在はそれだけである。
 周りからひたすら勧められてはいるが、特に心が動かされているわけではなかったから。










 さて、そのころ、噂をされているオルテンスはミオラたちからじっと見つめられていた。


 ひと時も目を離すことがないようにとでもいう風に見つめられているオルテンスは、不思議そうな顔をしている。ミオラたちはオルテンスがこのまま自ら命を落としてしまうのでは? と心配しているわけだが、当の本人はついこの前殺してくださいと言ったのが嘘のように普通にのんびり過ごしている。


 ただオルテンスの傍にいる侍女たちは、オルテンスがこのようにのんびりと過ごしていたとしても本心から殺してほしいとおもっていることも理解していた。


 オルテンス・サーフェーズという王女の心は、ひどくあやふやで不安定なものである。彼女がそうであるのは、そういう暮らしを強いられてきたからであろう。
 そのことを思うとすっかりオルテンスのことが可愛いと思っているミオラは、サーフェーズ王国に怒りを覚えていた。
 オルテンスは祖国への怒りの言葉などを口にしない。他でもない血の繋がった家族から酷い目に遭わされているというのに、オルテンスは恨み言など言わない。
 ――そのことが余計に、メスタトワ王国の人々の心を揺らしている。



 ただし本人は自分に対する価値がないと思っているので、そんな風に思われているなどと分かっていない。
 自身が命を落としたところで、誰かが悲しむなんていうことがオルテンスには理解出来ない。だからこそ、デュドナに殺してほしいなどと口にしているのである。



「ミオラ、凄く私のこと、見てるね」
「はい。オルテンス様のことを幾らでも見つめていたいですから」
「私のことを見つめていても楽しくないよ?」


 オルテンスは不思議そうにそんなことを言うが、ミオラからしてみればオルテンスは見ていて楽しい存在である。



「とても楽しいですよ。オルテンス様を見ていると幸せな気持ちになります」
「幸せな気持ち……?」


 またオルテンスが理解出来ないという表情をしたのは、自分を見ていて幸せになるというミオラの気持ちが理解出来なかったからだろうか。
 常に祖国で要らない者として扱われ続けたオルテンスはそのように口にされることもなかったのだ。


「私、ミオラに何もしてないよ?」
「何もしていなくても、好きな人のことを見ていると人は幸せになるものなのです。私はオルテンス様のお世話をしていて、すっかりオルテンス様のことが大好きですから、見ていて幸せになるのです」



 オルテンスはミオラにそういうことを言われても首をかしげている。
 その様子にミオラを含む侍女たちは胸を痛めてしまう。自身が誰かに好かれることが理解出来ないというのは、そういう暮らしをしてきたからだろう。


「……ですから、オルテンス様。私と約束をしてほしいのです。私も他の者も、貴方が居なくなるととても悲しいんです。だから、自分から命を落とすような行動だけはやめてほしいと思います」


 死なないでほしいと正直な気持ちを口にしても、オルテンスがそれに頷くか分からない。だからまずは最初に、自死だけはしないようにミオラはそう言う。
 真剣な瞳でそう告げるミオラに、オルテンスはまた首をかしげた。
 そして次にオルテンスの告げた言葉にミオラたちは唖然とした。


「しないわ。だって私は自分で死ぬことが出来ないから」


 オルテンスはさらっとそんなことを言い切ったのである。
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