愛たい夜に抱きしめて




わざわざ、それも身内の法事の時に、対面で説明しろ!と強要するようなことはさすがにしない。

そのあたりの常識は弁えているつもりだ。




『ごめんなさいね、澄良ちゃん。実は、今週いっぱいに立ち退いてくれって言われていてね……。いちばんに澄良ちゃんに言わなきゃいけなかったのに、ちょっとゴタゴタしてて言うのが遅れてしまったの。ごめんなさい』

「いえ。わたしは大丈夫です。人伝ではありましたが、ちゃんと伝えてくれましたし」




わたしがこの大家さん、もとい北見さんのとこを悪く思う日なんて、これまでもこれからも、きっとないだろう。

それくらい、お世話になってきたから。




「では、明日引越しの準備をすればいいですかね?と言っても、荷物はさほどないのでたぶん段ボール一個で済むとは思うんですけど」




わざわざ引っ越し業者の方に頼むほどの荷物はないしなあ、と思っていたら、前方から突然物腰柔らかな声が飛んできた。



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