ツンつよ令嬢、幼馴染に捕獲される
 はあ、と荒い息を吐きながら地面にへたり込むと、エルヴェは悔しそうにそれを見て、それから天を仰ぐ。
 その姿を目に焼き付けると、レティシアは黙って踵を返した。おそらく彼は自分にこの姿を見られたくないはずだ。
 レティシアの脳裏に、幼い頃の彼の面影がふとよぎった。
 五つも年上の割に、エルヴェはなんだか頼りない、大人しい男の子だった。兄たちがそとで棒きれを振って遊んでいるのに、自分はレティシアと一緒に本を読んで過ごすような、そんなタイプ。
 一度は、兄に無理矢理に外に連れ出され、棒で叩かれて泣いてしまった、なんてこともあった。
 ——けど……。
 暗いところと高いところも大嫌い。
 それなのに——レティシアと一緒に屋根裏に閉じ込められてしまい、夜を迎えてしまった時には、暗い部屋の中で「僕がいるから大丈夫」と震えるレティシアを慰めてくれたことを思い出す。

「ずるいわよ……自分ばっかり……」

 すっかり男の人になってしまって——。ざわめく胸を押さえ、小さくため息をつくと、受付に荷物を預け、レティシアは馬車に乗り込んでそのまま騎士団本部を後にした。
< 12 / 20 >

この作品をシェア

pagetop