突然ですが、契約結婚しました。
「いいんです。こういうときこそ、同僚じゃ出来なかったことしなきゃ」
「そのカード、俺にはないんじゃないのか」
「あはは、確かに」

卒業アルバムなんてどこに行ったのやら。高校卒業と同時に家を出て、それからはほとんどあの人のところへは帰らなかった。
一人暮らしのワンルームは狭くて、卒アルなんて邪魔になるものは全部あの家に置いてきたもんなぁ……。
そういえば……再婚して、あの家はどうなったんだろう。かつて、3人で暮らした一軒家。もう跡形もなくなっていっても不思議じゃない。

「昼ご飯食べたらどこか出かけようか」
「え、いいんですか? せっかくのご実家なのに」
「ずっと家にいてもつまらんだろ。初詣でも初売りでも、小澤の行きたいところに行こう」

わぁ、と思わず声を上げてしまう。主任からまさかそんな提案をされるとは。

初詣も初売りも、何年ぶりだろう。それこそ、湯浅の独身時代に一緒に行ったのが最後だったような。
主任の実家でゆっくりさせてもらうのも楽しいと思うけれど、知らない土地のお出かけも楽しそう。

「行きたいです、どっちも」
「よし、決まりだな。車貸してくれるよう、後で親父に言っとくよ」

ふっと微笑んで、彼は自室のある2階から階段を下りていく。その表情が心なしか楽しそうに見えたのは、きっと気のせいだ。


リビングに戻ると、テーブルいっぱいにご馳走が並んでいた。おせちに、お雑煮まである。

「美味しそう……!」
「そう言ってもらえて嬉しいわぁ。いっぱい食べてな」
「雑煮は毎年母さんの手作りやねん。環ちゃんの口に合えばいいけど」
「すごい。お雑煮なんて食べるの、ほんとに久しぶりです」

自分の瞳がキラキラと輝くのがわかる。テーブルに並ぶお雑煮を覗き込むと、器の中は馴染みのない白濁のお汁と具が。

「初めてだろ、関西の雑煮」

私の心を読んでいるんじゃないかって思うくらい、ドンピシャなタイミングで後ろから声がかかった。振り返ると、近いところに主任の顔があって思わずぎょっとする。も、彼の視線はテーブルに向けられていて、私の様子には気が付いていないようだった。

「関西のと関東のとでは全くの別物だからな。俺も、初めて関東の雑煮を見た時はびっくりしたよ」
「そういえば、関西のお雑煮は白味噌で作るって聞いたことがあります」
「上京してしばらく経つけど、雑煮は白味噌だな。美味いぞ」
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