どっぷり愛して~イケメン社長と秘密の残業~

ひとりには慣れていたはずなのに、今はひとりが寂しい。

小さい頃、母親じゃない会社の女の人が保育園に迎えに来たりした。

幼な心に、疑問を感じていた。

うちだけ変だなって。



家にはいろんな人が出入りしていたし、休みの日には全然知らない人と出かけたりもした。

母さんは、相当つらい人生だったと思う。

圭史たちのような子供を産めたからいいのよ、とよく言ってくれたけど、俺は母親を救い出してあげたい気持ちだった。


俺が社長に就任してから、母さんは親父とは別の場所で暮らしている。

それが願いだって知っていたから。
精神的な苦労から入院をしていた時期もあるけど、今は元気にしている。

小さな長屋で、質素な生活をしている母さんだけど、とても幸せそうだ。


万由を一度会わせた時の喜びようったら、俺もびっくりした。

万由を気に入ってくれて、涙まで浮かべてたっけな。

親孝行ができればいいな、と思う。

愛人を作って子供まで生ませた親父みたいに、俺はならない。


母が憧れていた、『家族』を俺は目指すよ。

だから、仕事で親父に認めてもらえるように、頑張るしかない。



万由が誕生日にくれたネクタイをして明日は出発しよう。




俺は、時々考える。

どうして、万由だったんだろうって。

万由からも聞かれるけど、もう難しい質問で、答えが出ない。

どうしてだろう。

運命、と一言で言ってしまえば簡単だけど、そうとしか言えない。




気になっていたのは事実で。

廊下やエレベーターで顔を合わすたびに、胸がドキっとしていた。
ただ、それは恋とは違っていたはずで。

いろんなことを諦めていた俺の心の隙間に、スーっと入ってきたんだよな。

どこにでもいる普通のOLって万由は言うけど、どこにもいないよ。

普通に見えて、普通なんかじゃなくて。



オアシスになりたいって言ってくれた時、思ったんだ。

あ、この子は俺のオアシスだったんだって。
何年も前から俺のオアシスだった。

疲れて会社に戻って来た時、エレベーターで一緒になったことがあった。

お疲れ様ですって言って、22階のボタンを押してくれた。

自分の階で降りる時に、ペコって頭下げて

「失礼します」って出て行った。

たったそれだけのことに、俺は癒された。


俺が大きなあくびをしていたら、

「社長、ちゃんと寝ないと病気になっちゃいますよ」なんて声をかけてくれたこともあった。

そんな小さなことの積み重ねで、俺の中で万由の存在がはっきりとした形で確立されていった。






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