大正ロマン恋物語 ~将校様とサトリな私のお試し婚~
 煙草を吸いながら、遠くを見つめる行正は、
「大変可愛らしいお嬢さんで」
と口では言っているが、その目が死んでいる。

 ――向こうから断ってくれたらよかったんだが。
 親がうるさいから、俺からは断れないし。

 だがまあ、伊藤家の娘だし。
 上官や親の勧める娘と結婚しておいた方が間違いないだろうしな。

 そんな行正の心の声がなだれ込んできた。

 うっ、そんなことだろうと思ってましたけど。

 ズバリ聞かされると辛いな、と思いながら、咲子は物陰で、じっとしていた。

 すると、
「咲子さん、迎えに行った方がいいんじゃないかね。
 君は仕事はできるが、どうもその手のことには(うと)そうだから、ちょっと心配だよ。

 今は女性も物の考え方が西洋化してきているから、こんなときには、さっとエスコートできるようじゃないと、奥さんと上手くいかないと思うよ」

 そう言いながら、上官が振り返る。

 咲子と目が合った。
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